第3話

「お返しはどうしようか」

 その大きな体でモジモジしないでいただきたい。気持ち悪い。


 元はライラ様から届いた手紙の中に、王都のご令嬢たちの間で四葉のクローバーをモチーフにしたアクセサリーが流行していると書いてあったのが事の始まりだった。

 それは決して催促ではなく、ライラ様は手紙でよく王都で流行中のものやマイブームについて言及されるため、このエピソードもそのひとつではあったのだが、ただ手紙のやり取りだけではつまらないとふと芽生えた思い付きで言ってしまった。

「それならば何か四葉のクローバーにまつわる物を贈ったら喜ばれるかもしれませんね」

 これがマズかったのだ。

 

 四葉のクローバーをかたどった一点物のアクセサリーをオーダーして贈るのが妥当だろうと思っての進言だった。

 それをマリエル様はどう解釈したのか、本物の四葉のクローバーを見つけてライラ様に贈りたいと言い出したのだ。

 一度言い出したら聞かない頑固な性格の我が主だ。

 その翌日、訓練そっちのけで隊員総出の四葉のクローバー探しが始まった。


「なんで俺らがこんなこと……」

 とブツブツ文句を言っていた隊員たちも、マリエル様の

「発見者には褒美として高い酒を振る舞う」

という一言で俄然やる気を出し、普段の訓練以上の士気の高さと熱量を以って合計12枚もの四葉のクローバーを発見したのだった。


 器用なメイドたちの手によって押し花にされた四葉のクローバーの完成品は10枚だった。制作の過程で葉が折れてしまったものとちぎれてしまったものが1枚ずつありメイドたちは申し訳なさそうにしていたが、気は優しくて力持ちを体現しているマリエル様はそんな些細な事で怒ったりはしない。

 自分の鼻息で飛んで行ってしまうんじゃないかと完成した押し花を気遣いつつ、彼女たちにも金一封を振る舞って労っていた。


 そしてそれをライラ様へ送る手紙に同封したのが先月のこと。

(数枚ずつ何回かに分けて送ったほうがいいと言ったのに、ケチな人間だと思われたくないと言い張ってまとめて送った)

 つまり今回ライラ様から頂戴した栞はそのお返しというわけだ。

 それなのに、さらにその「お返し」とは、キリがないではないか。


 エンドレスなお返し合戦。まあ婚約者同士のおもはゆいやり取りと思えば何とも微笑ましい――本来はそうなのだろうが、いかんせんライラ様のお相手がこのボス猿である。

 「おもはゆくて微笑ましい」ではなく「怖ろしくてホラー」になってしまう。


「どんぐりか松ぼっくりでも贈ってはいかがです?」

「何を言う、ライラ嬢はもう17歳だぞ。さすがにそれは子供っぽすぎるだろうが!」


 マリエル様の頭髪は赤褐色、瞳はヘーゼルナッツの色だ。

 お返しにこちらも瞳の色でとなると、木の実しかないだろう。

 ライラ様が銀髪に紫色の瞳のお人形のように愛らしいお嬢様であるのに対し、マリエル様はいかにも山野戦向きの茶系統の毛並みのボス猿だ。


「そう思わせておいて、その木の実がぎっしり詰まった箱の中に指輪を忍ばせておくというのはいかがでしょうか」

 にっこり笑って進言すると、マリエル様はズキューン! と撃たれたかのように胸を押さえた。

「なんとロマンチック……」


 ボス猿が目をハートにしている光景ほど気持ち悪いものはない。

 遠い目でそう思っていたら、突然マリエル様が頭を抱え始めた。

「ダメだ! 女同士で指輪を贈るのはさすがにおかしいと思われるっ!」

「いつまで隠しておくおつもりですか。来年にはあなたたち結婚されるんですよ?」


 我が主は一体いつまで性別を偽るつもりなんだろうか。

 やれやれと思いながら頭を掻きむしるマリエル様を見守ったのだった。

 

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