終末未来

二階堂 萌奈

花の章

第一話 石版

 薄暗くジメジメとしたこの部屋。どうやらこの部屋は日中の日の当たりが絶望的に悪いらしい。僕はテーブルの上のリモコンを持ち、テレビをつける。しかし、それを見るでもなく僕はベッドに寝転んだ。


 今日は夏休みの二日目。特に遊ぶ予定も気分もない僕にとって、夏休みは長すぎる。やることもない僕は、目を閉じて体を休ませた。すぐに眠りにつけそうなほど疲れていたが、それは叶わなかった。


 プルルルルル…………プルルルルル…………。突然スマホが震え出した。面倒くさいなと、思いつつも、仕方なくベッドから起き上がる。スマホを持ち上げ名前を見ると、「絢香」と表示されていた。僕は、小さな欠伸をして、目を擦りながら電話に出た。


「もしもし」

『もしもし! 元気してる? 』


 電話先の声はとてつもなく活気に溢れている。


「こんな暑い日に元気なわけないだろ」

『そっか! じゃあガツーンと元気になるようなもの一緒に見に行こうよ! 』

「なに見に行くの? 」

『なんとね、今ニュースになってるんだけど! 空から降ってきた石版があるんだって! それを見に行こうかなって』


 チラッとテレビの方を見ると、丁度例の石版の話が流れていた。突如として空から降ってきた石版。特に危険性がないとの事で、一般人も見ることが許可されているようだ。


「いいよ。絢香の家に行けばいい? 」

『こっちから行くから、準備して待ってて! 』


 ガチャ……ツーーー……ツーーー……。一方的に電話を切られた。仕方ないので、僕は出かける準備を始めた。




 服を着替え、髪を整え、バッグの準備をしてベッドに腰かけた。ポケットからスマホを取りだし、石版について検索した。



『突如として、空から降ってきた石版。それは宇宙人からのメッセージなのか? それとも過去の文明の遺物なのか? 専門家の意見によりますと…………』




 調べてみていくつか分かったことがある。石版には謎の文字が書かれていて、それらはこの世のあらゆる言語にも類似しないこと。石版は地面に強く固定されてしまっており、動かすためにはある程度の準備が必要だということ。降ってきた時刻は分からないが、数日前まではなんの異変もなかったこと。そして、現在の技術では再現不可能なほど完璧な立方体の形をしていること。


 調べれば調べるほど謎は深まっていくばかりだ。石版は宇宙人によるメッセージであるという意見が大多数のようだった。世界中の言語学者が躍起になって解読しようとしているようだが、どうにも手がかりすら掴めていない。


 ピンポーーン…………。家のインターホンが突然鳴りだす。時刻を見ると十三時半。電話をしてきた時間と計算しても、恐らく絢香が到着したのだろう。僕は立ち上がり玄関に向かおうとした。


「霧島恋…………決して振り向かずに話を聞いてください」

「ッ…………!? 」


 背後から突然声が聞こえた。聞いたことのある声だったが、誰の声であったかは思い出せない。僕は忠告通り、振り向かずに次の一言を待っていた。


「私は、個体ナンバー1111。あなたに伝えたいことがあって未来からタイムスリップしてきた」

「…………?? 」

「伝えたいことはたった一つ。何があっても石版には近づかないで」

「どういう意味だ? 」

「あの石………未来………だから……………世界が終わ…………」


 突然声にノイズがかかりだし背後から気配が消えた。恐る恐る後ろを見ると、そこには誰もいなかった。



         *



「もうすぐ石版に着くよ! 」


 電車で揺られること二十分。僕らは石版が落ちてきたところに向かって歩いていた。しかし、出発前に聞いたあの聞き覚えのある声がなんなのか。何故あんなことを忠告したのか。気になってあまり集中出来ていなかった。


「ほら! あれだよ! 」


 絢香の指の先を見る。そこには灰色とも言えない、黒とも言えない、独特な雰囲気を醸す物体が落ちていた。僕らは例の石版に近づく。


 ギリギリ手で触れられない所まで近づくと、石版に書かれている文字が見えるところまで来た。確かに今までの僕の浅い知識では到底解読できる難易度ではない。


「こんなのが空から降ってきたって、初めて見た人はびっくりしただろうね…! 」

「そう……そうだな…………?」


 ……ふと、過ぎる違和感。この石版はいつ降ってきたのかが分からない。なのに「降ってきた」となぜ断言できる? 時刻が分からない以上降ってきているところは誰も見ていないはずだ。


「どうしたの? 顔色悪そうだけど……」


 言われて気づく。相当集中して考えていたようだ。


「大丈夫。それより、そろそろお腹空いた」

「そうだね! どこで食べようか? 」


 石版から目を離す。振り向いて、今来た道を帰ろうとした時に、とあることに気づいた。


 人がいない―――。


 そもそも石版の周りに人集りがなかった時点で気づくべきだった。それにしても、何故こんなにも静かなのか……。


 焦っていると、突然、頭に強烈な痛みが襲う。ハンマーで強く打ち付けられているような痛みだ。隣を見ると、絢香も頭を抑えている。


 僕は頭を抑えたままその場に倒れ込んだ。



   **************




 目が覚めた時、そこは見たことの無い世界だった。見渡す限りの緑の大地。今まであったはずのビル群は後かもなく消えている。空を見上げると、見たことがないほどの澄んだ青空。しかし、謎の機械のようなものが大量に浮かんでいる。


 ……目を前に向けると、半分が壊れ、崩れ落ちた巨大な赤い歯車のような何か。そして……



 隣を見ると、そこには誰もいなかった…………。

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