第19話

 私は朦朧もうろうとする中、ポケットに手をやった。

 常備している緊急停止装置。

 それを手で探り当て、スイッチが指に触れる。


 しかし……


 私の頭の中によぎったのは、ミナとの楽しい日々だった。

 良き日々の走馬灯だろうか、私はこの数ヶ月のミナとの思い出を懐かしんでいた。


 喜ぶミナ。

 私を慕うミナ。

 快楽に顔を赤らめるミナ。

 無邪気に笑うミナ。


 私は長い間生きてきたのに、この数ヶ月の思い出しかよぎらない。

 私の輝かしい人生。数々の栄光と賞賛を浴びた人生。

 けれど私の人生のハイライトはミナと居たこの数ヶ月の時間だけなのだ。



 目から一筋の涙が溢れた。



 私は床へ崩れ落ちた。

 ミナは私から手を離し、息を切らしながら私の倒れた姿を見ていた。


 そして涙を拭い、歯を食いしばり、求める者へ向けて走っていった。



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