ACT.3 キャノンボール


 あらすじ


 裏榛名でキャノンボールの練習をしていた智とオオサキ、そしてあきら。

 その途中でND5RCが乱入し、バトルを挑んできた。

 バトルに自信がないあきらはパスし、オオサキがバトルをすることになる。

 相手の走りは遅くなく、彼女は引き離すことに苦労するものの、智のアドバイスを受けたことや能力が発動したことでその車を引き離すことに成功した。

 ND5RCのドライバーの名は毛利スグル、彼もキャノンボールレースの参加者だった。

 そしてその日がやってくる……。


 6月28日の日曜日。

 上毛三山キャノンボールレース開催日を迎えた。


 群馬県内のみならず、全国から50台を越えるクルマたちがスタート地点の前橋市赤城少年自然の家に集まっている。

 玄関にはブラスバンドを持った人たちもたくさんいて、皆楽器を演奏している。



 現在、おれとプラズマ3人娘、智姉さんとあきら、六荒はスタート地点へ向かっていた。


「わだすの青春が始まるんだべ! 武者震いが止まらねー!」


「ったく、クマさんはドリフト甲子園という青春を体験しとるやろ?」


「いや、わだすは本格的なレースの大会は初めてだあァ~! わっくわくすっべ~!」


「何か来たよ!」

 

 タカさんはミラーから3台のクルマが来ることを確認した。

 共に赤い色をしていて、マツダのサバンナGTを先頭に、ホンダのEF8型CR-X、EF9型シビックが並びながら走行していた。

 これら3台はおれたち7台のクルマを猛スピードで追い越していく。

 おれのワンエイティと智姉さんのR35を追い抜く際、3台は幅寄せしながら抜いていった。


「ったく、危ないなァもう!」


「赤い鳥……」


 それを呟いた智姉さんは3台のことを何か知っているようだ。


 赤い鳥と呼ばれた3台はスタート地点に到着する。

 3人はそれぞれのクルマから降り、運営の元へ向かう。

 リーダーと思われるサバンナ乗りの女性はある事を頼み込む。


「大崎翔子というドライバーが来たら、この数字にして欲しい……」


 この数字とは一体……!?


(あの数字は不幸を呼ぶ数字だ……彼女は我々にとって日本転覆のためには邪魔な存在だ)


 おれたちはスタート地点に来る。

 同時に実況がおれたちの事を紹介した。


「今入場してきたのは……新しき赤城最速、大崎翔子とRPS13型180SX!! 次に入ってきたのは……昨年度ドリフト甲子園のトップ3! 熊久保宣那とC33型ローレル、小鳥遊くにとHCR32型スカイライン、川畑マサミとA31型セフィーロ! そして……期待の新星!? 彩依里あきらとC4型コルベット!!」


 クルマを駐車させると、スタッフの人からゼッケンが渡される。

 おれは49番、クマさんが515番、タカさんが92番、カワさんが35番、あきらが313番だ。

 

 次は紙にクルマの仕様を書き込み、さらには参加者リストも貰った。

 これには50人を越える参加者の名前が載ってある。

 もちろん、おれたちの名前もある。


「ワンエイティには49番の数字をつけて貰った。49は「死」と「苦」という意味を持つ不幸な数字だ。この数字をつけたまま落とし穴に落ちた方がいい」


 ゼッケンをつけたワンエイティを赤い鳥の3人は見つめた。

 そんな理由でこのゼッケンを付けたのか……。


「あれ!? 50台以上と言われとる参加台数やけど、現在ここには15台ぐらいしか集まっとらんほど少なく感じますよ?」


 この前遭遇した毛利さんの姿もなかった。

 あきらと共に、受付の人にその理由を尋ねた。


「今、ほとんどの人はレースが待ちきれないから大沼で練習走行をしております」


 その時、1台のクルマが練習走行から戻ってきた。

 毛利さんのND5RC型ロードスターだ。

 その後ろから青緑・黒・赤の3色のカラーリングをしたS15型シルビア、そしてフロントがクラシックカー風のデザインになっているクルマとシルエットフォーミュラをお思わせるエアロを身に付けた白と黄色のクルマがやってくる。

 S15の後ろにいる2台は、どちらも車種はいすゞのJR120型ピアッツァだ。


 ND5RCから毛利さんが降りて、S15の元へ向かう。

 S15からも、ドライバーの女性が降りる。


「よぉ谷さん、同じ広島出身者としてワシは負けんけぇのう! ワシのND5RCには電動ターボのロータリーを載せとる」


「わしに勝てるかのう」


 オレンジのピアッツァ乗りの女性もクルマから降りて、谷と呼ばれる走り屋の元へ向かう。

 

「あんたが谷さんか……うちも勝ったるま。うちのピアッツァはVR38とアテーサET-Sを搭載したモンスターわいね」


「わしのS15もかなりのモンスターじゃ。お主のクルマに負けんパフォーマンスを持っとる」


 白と黄色のピアッツァからも、ドライバーの少女が降りてくる。


「お姉ちゃん程じゃねーけど、うちもすげぇ速ぇわいね!」


「姉妹でわしと戦うつもりかのう」


 彼女たちの身体からオーラが出てくる。

 覚醒技超人のようだ。

 

 S15の女性からは青と黄色のオーラ、オレンジのピアッツァの女性からは赤と白のオーラ、その妹からは白とオレンジのオーラがわき出る。


「毛利さんだけでなく、他の人も覚醒技超人だ。かなりの強敵そうだ……」


 S15の女性がおれの元へ向かう。


「お主が赤城最速の大崎翔子じゃのう?」


「君は誰? おれの事を知っているの?」


「わしは谷輝じゃ。お主の倒した雨原芽来夜はわしのライバルじゃ。わしは雨原のようなやられ方はせん」


「赤城最速の名に懸けて、おれは負けないよ!」


 谷はS15の元へ戻っていった。


「こないだのND5RCとは別の意味で強敵が現れましたね……ワシは逃げたい気分になりました……」


 谷の雰囲気を見て、あきらは身体を震えさせた。

 智姉さんの口から詳しい谷の情報が出る。


「谷輝……。広島県出身の28歳で、前の赤城最速こと雨原芽来夜とはライバル関係だ。筑波サーキットで1分切るほどのテクニックを持ち、多くの草レースで1位を取っている走り屋だ。彼女は本レースの優勝候補だ」


 この人はかなりの強敵の予感だ。

 彼女と出会った時、苦戦が予想される……。


 ピアッツァの女性2人ついても解説する。


「あのピアッツァ乗り2人は石川県から来た走り屋で、石川最速の姉妹だ。オレンジの方が姉の和倉奈々央、白と黄色の方が妹の千路だ」


「遠い所から来た走り屋もおるんですね。中々レベルが高くなりそうどす」


 他の地方から来た強敵もいるけど、赤城最速の称号のためには負けられない。

 おれが負けたら赤城のレベルは低いと言われそうだ。


 一方で、赤い鳥の3人はワンエイティに何か細工をしていた……。

 それを六荒と桃代さんが眺めていた。

 おれはその事をまだ知らない……。


 午後5時になるとドライバーは全員それぞれのクルマに乗り込み、スタートを待つ。


キャノンボールレースの主な参加者


大崎翔子(RPS13)

番号:49


熊久保宣那(HCC33)

番号:515


小鳥遊くに(HCR32)

番号:92


川畑マサミ(A31)

番号:35


彩依里あきら(CY15B)

番号:313


谷輝(S15)

番号:0


毛利スグル(ND5RC)

番号:55


和倉奈々央(JR120)

番号:135


和倉千路(JR120)

番号:112


etc……



「いよいよバトルが始まろうとしています! 実況は私、マナフィーこと古舘学がお送りします! 群馬の象徴、上毛三山を巡るレースで誰が勝利の女神が微笑むのか!?」


 スタート時のポジションはクジで決められた。


「うちってええクジ引いたわ」


 先頭には川畑さんのA31が立つ。

 おれとワンエイティ、あきらとC4は真ん中に立っている。


 スタートまであと60秒、

 カウントはどんどん進む。

 40秒、30秒、20秒、10秒と時間は減っていき……残り9秒!

 8、7、6、5、4、3、2、1


 GO!!

 カウントが0になると、全車一斉にスタートする!!

 川畑さんのA31を先頭にした列が少年自然の家を出る。


「うちを抜けるんなら、抜いてみい! 絶対抜けんで!」


 川畑さんの能力は1台につき1度だけ追い抜きを防ぐものであり、彼女のクルマを抜こうとしたクルマたちは失速していき、中にはスピンする者まで現れる。


「スタートしてすぐは、混乱防止のためにまずは大沼を1週して貰います! おっと、赤城最速の大崎翔子と180SX……トラブルか!? 動かないぞ!」


 実況が言っている通り、おれはなぜか動かなかった。

 黒タイツに包まれた右足でアクセルペダルを踏んでも、動かない。


 クルマから降り、何が調子悪いのか確認したら原因が分かった。


「リアタイヤに石が!?」


 その石を退けて、再びクルマに乗り込む。

 それを退けたら、クルマがスタートした。


「許せないよ……おれのクルマにこんな事をした奴!」


 見つけたら、懲らしめてやろう!


 タイヤに石を置かれたせいで最下位からのスタートとなったおれは大沼に入る。

 雨原芽来夜を倒したテクニックで前のクルマとの距離を縮め、ごぼう抜きしていく。


「流石、赤城最速! 驚異のテクニックで最下位から順位を上げていく!」


 しかし、黒檜山登山前の左中速ヘアピンにてドリフト中の出来事。

 その最中に、何か横からぶつけられる。


「うわッ!」


 ぶつけてきたクルマは赤いEF8型CR-Xだ。

 同色のEF9型シビックも来る。

 

「何でぶつけてきたのォ!?」


「我々の使命にお前は邪魔だ。消えてもらう」


 マジで事故ったらどうするの!?

 レース開始と同時に取り付けたトランシーバーから、智姉さんの声が聞こえてくる。


「この走り屋はお前を狙っている。お前が私の弟子だと知ったからだ」


「おれが智姉さんの弟子だからですか!?」


「彼らは赤い鳥という日本転覆を狙うテロ組織であり、新興宗教団体・新月宗の傘下だった。その新月宗というのは私が現役時代に潰した団体だ。親団体に当たるそれを潰されたことや目的の邪魔になるという理由で、私の弟子であるお前を狙っている」


 メンバーの情報についても教えて貰う。


「CR-Xに乗っているのが森川恒夫と言い、EF9に乗っているのが永島愛季と言い、そしてサバンナに乗っているのがリーダーの赤い魔女こと重信杏里だ」


 CR-XとEF9と戦っているおれの前を走る赤いサバンナ乗りこと重信は後ろを眺めていた。


「大崎翔子を最下位からスタートさせる作戦は実行したものの、少し逆転されたか……果たしてあの2人には大崎翔子を退治できるだろうか。2人で退治が出来ないなら我1人で止めるしかない」


 重信の遥か前にいるあきらはこんなことを考えていた。


「オオサキさんおらへんな……前におらんかったし……何があったけん遅れたん?」


 前におれがいないことに疑問を持ったようだ。

 その後、中間の順位で赤城道路を走っていく。


「どうして、おれに邪魔をするんだろうか? まさかワンエイティのタイヤに石を置いたのはこいつらか? こいつらホント許せない」

 

 石を置いた犯人は勘で分かった。

 またトランシーバーから智姉さんの声が出る。


「赤い鳥たちがお前のクルマに石を置いていたのを六荒と萩野が見ていた。お前のスタートが遅れたのはそのせいだ。これ以上邪魔されないように気を付けてくれ」


「了解です!」


 ペースを上げて、アクセル全開でワンエイティを走らせる。

 

 青木旅館前のS字コーナー。

 CR-XとEF9は両方共に赤いオーラを纏った。


「<アジアン・カンフー>!」


「<アジアン・カンフー>!」


 2台共、カンフーの攻撃を彷彿させるバンパープッシュでおれとワンエイティにぶつけてくる!


「うわッ!」


 また邪魔された!

 勢いよくおれのワンエイティはふらつく!


「大丈夫か!?」


 トランシーバー越しで智姉さんから心配される。


「今、ぶつけられました」


「言ったろ、気を付けてくれって」


 ホント許せない!

 やっつけてやろう!


 大沼を抜けて赤城道路に入る。

 途中で毛利さんのND5RCと谷のS15を抜いたものの、彼らはまだ本気を出しておらず力を温存していたようだ。

 総合観光案内所前でDUSTWAYの雨原さんと葛西三姉妹がギャラリーしていた。


「オオサキちゃんが来たぜ」


「遅れているな……」


「糞(シット)ォ! 何があったんだよ……」


「けど、ボクは逆転するかもしれないと思うよ……」


 ロングストレートを抜けて、S字からの左U字ヘアピン。

 赤い鳥の2台は赤いオーラを纏った。


「また仕掛けるぞ。<アジアン・カンフー>!」


「<アジアン・カンフー>……!」


 またバンパープッシュ2発が来る。


 しかしおれはそれを対策する!

 風のような萌葱のオーラを纏う!


「させない! 小山田疾風流<フライ・ミー・ソー・ハイ>! イケイケイケイケイケイケイケイケェー!」


 ドリフトしながら2つのバンパープッシュを避ける。

 

「うわッ!」


「わッ!」


 バンパープッシュしようとした2台が互いにぶつかる!

 2台は両方共激しくふらつき、そしてスピンを遂げた。

 2人共トランシーバーを持って、重信に連絡する。


「大崎翔子を狙えなかった……!」


「技を避けられた……」


「仕方ない……我が狙う!」


 2人がいなくなっても、リーダーの重信がまだいる。

 その2人より強敵そうだ……

 重信のサバンナから赤と萌葱のオーラが出てくる。


 森川と永島の邪魔をはね除けたおれはその後も順位を上げていき、赤城道路を抜けていった。

 現在は31位だ。

 相手の妨害で最下位からスタートしたとは思えないほど、順調な滑り出しだ。


「49番の180SX、順位をどんどん上げていく~!」


 しかし国道に入ると、大きな壁と言えるクルマが走っていた。

 その車種は、緑のEK4型ホンダ・シビックで、赤と黄色のオーラが出る。

 ドライバーは覚醒技超人かもしれない。


「赤城最速のワンエイティが来たね」


 後ろを走るおれを見つけたEK4はものすごい加速で、おれを引き離していく。

 こんなにパワーがあったっけ!?


 FF車はパワーを上げすぎると強烈なアンダーステアが出ることから、そんなチューニングには向かない。


 350馬力のワンエイティより直線が速いFF車っていたのか?


「私のEK4はどのFRにも負けないよ!」


 EK4の前に見覚えのあるクルマが走っている。

 クマさんのC33だ。


「速えェ、このEK4。おらの430馬力のC33を直線で煽っているべ。何馬力あるだァ~?」


 クマさんのC33に迫るパワーを持つEK4とは一体!?


TheNextLap

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