第46話 『悪役』と武士

 剣技の講義が終わって昼休み、俺たちは食堂で飯を食べに行く。フルル先生も『ボクだって保健室で1人寂しく食べるのは辛いんだよ!』と言って俺たちに付いてきたから4人の大所帯だ。


 そしてユノの食べる量に驚いて固まっているフルル先生。チャーハンを食べる手が止まってますよー……まあ、初見は流石に驚くよな。


「なんというか……凄い食べるねユノ君は」

「ん。食べるの好き」

「よくそんなに食べて太りませんよね……どこに食べたものが行ってるのでしょうか?」


 シアン姫が羨ましげにそう聞くと、ユノは少し首を捻って考えた後……自分の胸を鷲掴わしづかみにした!?


「おっぱい」

「こ、こら!はしたないですよユノさん!」

「最近また大きくなった」

「わー!わー!耳を塞ぐんだタイタン君!」


 フルル先生に後ろから耳を抑えられる俺。この場合塞ぐべきなのは目では?その疑問を解消するように更にシアン姫にフルル先生をサンドする形で目も塞がれる、俺は一瞬にして五感のうち2つを失った。


「そ……ブラ……キツい……」

「ブラ……けてない」

「ダメ……さん!はやく買い……しょう!」

「ボクも…………くよ。流石に……ぎる」


 フルル先生の身長が低くて耳の塞ぎが不十分なせいで若干聞こえる。あぁ、ユノはお金無いから……ユノの胸のことを思い出しそうになって慌てて頭を振る。


「あぁ!動くんじゃないよ、もう!」

「女の子の秘密の会話ですのでタイタンさんはこのままです!」

「……えっち」


 頭を振ったせいで押さえてた場所がズレてフルル先生とシアン姫が怒り、ユノがまた俺の事をえっちとののしる。全部不可抗力だっ!


 その後、今日はタイタンさんが一人でなんかしておいて下さい!と投げやりにシアン姫に指示された俺。いやまあ、別に女の子3人の買い物に付き合うとか恥ずかしいから良いんだけどさ……


 と言うわけでトボトボと一人で当てもなく学園内をさまよっているという訳だ。そういえば、学園に入ってから『一人になる』といった経験が無かったな……突然降って湧いた一人の時間に俺はどうしようか考える。


 モンスター狩りもいいし、単純に剣を振るのも良い。折角だしユノやシアン姫やフルル先生以外のヒロインを探しに行くのも……って、流石にそれは無いか。


 俺は別にハーレムを作りに来てるんじゃ無い、強くなって生き残るためにいるんだ。俺は怖いもの見たさにヒロインに接触しようとした自分の軽率さを反省する。


 剣を振るのは相手がいないときよりもいたときの方が訓練になるし、今日はモンスター狩りかな。


「おい」

「ん?」


 そう思って学園を出た瞬間、ある男子生徒から声をかけられる。こいつ……剣技の講義にいたやつだよな?


 ふと周りを見ると他にも数人の男子生徒が俺を取り囲むように近付いてきていた。温い殺意と『現実』を見れてない目で俺を睨んでる……俺を囲んでボコるつもりだな?


 声をかけてきた男子生徒が俺を指さして――


「シアン王女様とユノさんを今すぐ解放しろ!」


 と意味分からないことを言ってきた。解放?別に解放もなにも、束縛しているつもりは無いんだが……

 俺が疑問に思っていると周りが俺を取り囲んで口々に騒ぎ立て始める。


「弱いお前が一番強いなんてあり得ない!」

「なにか弱みを握っているんだろ、卑怯なヤツめ!」

「洗脳でもしてるんじゃないのか!?」


 口うるさく俺に罵倒を浴びせる周りの奴ら、俺に声をかけてきた男子生徒はそれを片手を上げて静止させる……こいつがリーダー格か。


「俺たちだってこんなことはしたくないんだよ、だから……な?痛い目を見ないうちに従えよ」

「あー……つまり『ただでさえ剣技の講義は女の子が少ないのに、アイドル的存在の王女様とパンチラ多発してるユノがお前にばかり集まっててズルいから寄越せ』って事か?」


 なっ!そんなことは言ってないだろう、勝手なこと言うな!と慌てている目の前の男子生徒。なんだ、図星か……周りも俺の言葉に動揺しているし、やっぱ下心だけで来たのかよ。


「その下心丸出しなリビドーを鍛錬につぎ込んだらシアン姫やユノが振り向くかもなー。んじゃ、俺はやることあるから」

「まっ、待て!話は終わってないぞ!」

「いや終わっただろ……俺は束縛なんてしてないし、あいつらの意思で俺と共にグループ組んだんだろ?だったら俺に話を通すよりあいつらにアタックかけろよ」


 時間ねぇんだよ俺は、お前らに足止めされてる間に何体のブルカウが倒せると思ってんだ?そんな俺の思いもむなしく、男子生徒はつれない俺の態度に苛立って剣の柄に手をかける……良いんだな?


「そこまでして二人を手放さない気なんだな……!」

「おい貴様ら……それを抜いたら、?」


 俺は自分が持てる最大限の殺気を周りの生徒に当てる。周りの生徒が放っている温い殺気を吹き飛ばすような濃厚な殺気が辺りを漂い、全員が青ざめた。

 呼吸すら満足に出来てないやつもいる、その程度で俺の前によく立ったものだ。


 俺は一歩踏み出すと、周りが一歩下がる。おいおい、逃げるなよ……俺は目の前の男子生徒の足に《パラライズ》をかけた。


「あっ、足がっ」

「俺に対して剣を抜こう殺そうとしたんだ……逃げるなよ」

「ひっ、ひいぃ!」


 俺は自分のロングソードに手をかけ……


「《桜花飛沫》!」


 ??? の 《桜花飛沫》!▼


 ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


 背後からの剣技を受け流した!気配が急に現れたと思ったら、今か今かと襲い掛かろうとする殺気が立ってたんだよ


「避けられたか……お主、何者なにものじゃ?」

「……俺はタイタン・オニキス。俺の知っている武士というものは、先に名を名乗るものだと聞いていたが」

「むっ、すまない。拙者せっしゃとしたことが」


 刀を一振りした女子生徒が納刀し、頭を下げる。つややかな黒髪を後ろ手で1つに縛り、古風なしゃべり方をするキャラ……マジかよ、お前は2年生からの攻略対象ヒロインだったはずだろ!?


「拙者は『藤堂氷雨ヒサメ』、ここよりはるか東……の国から『カグラザカ学園』にやってきた留学生の身じゃ」


 タイタン殿、その殺気は人をあやめてしまうものぞ?とその黒い目を闘志に燃え上がらせた彼女武士はそう言って獰猛どうもうに笑った……

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