第34話 『悪役』と悪意

 剣技の講義が始まる。ゲームでは時間が経つ表記と、途中で挟まれる会話イベントがあるぐらいの簡素なものだったので俺も講義は初見だ。


 鉄のロングソードを持って昨日シアン姫と一緒に練習していた訓練場へ。すると……


 ユノ の 《投擲》!▼


 ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


 俺の方にナイフが飛んできたので軽く避ける。ここ最近、命を狙われる事が多いから気を張ってて良かったよ……


「っち、おはよう」

「おはよう。お前も剣技の講義取ってたんだな」

「……1年生で強くなれる講義がこれしかなかった」


 魔法使えないし、と訓練場の壁に刺さったナイフを抜こうとするユノ。思ったより深く刺さっていて抜けないのか、ぐぬぬ……とナイフのを引っ張っている。


 しまいには足を壁にまで付けて……はしたないぞユノ。


「はぁ……俺が代わりに取ってやるよ」

「やだ。ユノのミスだからユノがやる」

「つってももう講義始まるんだから……」


 そう言いながらユノに近付くと、そのタイミングでスポッとナイフが抜ける。


「あ」

「あ?」


 そのままの勢いでユノがこっちに倒れてきた。すぐ後ろまでユノに近付いていた俺は避けることが間に合わずユノに巻き込まれてしまう。


「いっつ……貴様」

――むにゅっ


 したたかに後頭部を地面に打ち付けた俺は、上に乗っかってるユノを反射的に払いのけようとしたその手に柔らかい感触を覚えた。

 なんだこの柔らかいの。そういや、なんかつい最近やってしまったよう、な……


「……っ!」


 シュバっとユノが俺から離れて視界が開ける。慌てて上体を起こしてみると、さっき抜いたナイフをこちらに構えフーッ!フーッ!と荒い息を吐いているユノが。


「おっぱい、さわった」

「あー、その。すまん」

「殺す」


 ユノが消える。昨日と同じ《首狩り》だが、今回は発動地点から5メートルも距離が無い!

 俺は咄嗟とっさにしゃがむ、これは賭けだ。


ユノ の 《首狩り》!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


 さっきまで右肩があった場所にヒュンッと風切り音が流れる、こいつマジで肩から右腕落としに来やがった!


「えっちな手は切り落とす」

「不可抗力だ!」

「しらない、貴族はうそつき」


 フシャーッと鳴くユノ……ネコかよ。さてどうやって止めようかと俺が考えていると――


「これはいったい……?」


 シアン姫が訓練場に入ってきた。マジ?昨日の保健室の事と言いタイミングが悪すぎる!

 シアン姫の元にててててーっと駆けていくユノ、待て!それだけはダメだ!


「あいつがユノのおっぱい触った」

「なっ……!本当ですか!?」

「いやらしかった」


 ユノがシアン姫にチクった。あーあーこっちを見ているシアン姫の顔がどんどん怒りに染まっていっているよ……死んだか?


「タイタンさん!あなたと言う人は~!いったい何人のに手を出せば気が済むんですか!?そこになおりなさい、そのイタズラな手を切り落として差し上げます!」

「賛成、ユノもやる」

「だから不可抗力だったんだって!」


 だめだ俺のいうこと聞いてねえええ!レイピアを抜いたシアン姫とナイフを逆手に持って姿勢を低くしたユノ。

 こんなところで……っ、死んでたまるかああああ!俺はロングソードを抜こうとしたところで――


「はーい、ボクの目の前で殺しは許さないぞー?ボクでも死人を蘇らせることは出来ないんだからさぁ」

「モーレット先生!?」

「タイタン君、君は本当に運が無いね。王女様、ボクときて、今度は彼女かい?」

「むぅ、殺さない。右腕だけ」


 フルル先生が仲介に来てくれた。シアン姫は驚き、ユノは不満そうな顔をしている……そっか、剣技の講義とか実際に刃物を扱うんだからケガもするよな。


 フルル先生みたいな優秀な回復師ヒーラーがいれば安心か、と俺はフルル先生がここにいる意味を理解する。


「右腕だけでもダメだよ。基本的に剣技での授業は寸止めが基本なんだ、過失ならともかく故意はダメ」

「わかった、事故にみせかける」

「絶対わかってないよ……はぁ、タイタン君」


 フルル先生がこっちを向く。ん?なんでしょう?なんかじとーっとこっちを見てるんだけど……


「君はなんでそんなにも嫌われるんだい?」

「自分としては嫌っているつもりはありませんけどね……」

「じゃあ、彼女の片思いってことかい?」

「……持ってる思いは『殺意』ですけど」


 ほら、さっきからユノがいつでも襲いかかれるように機を伺ってるもん。シアン姫はまたぷくーっと頬を膨らませている……ごめんって。


「何をすればたった3日でみんなから嫌われて、あんなにも殺意を抱かれているのやら……」

「さあ?」

「さあって……」


 君、ボクの言うことが分からなかったのかい?と腰に手を当ててやれやれと呆れるフルル先生。違うんですよ、なんか勝手に嫌われて勝手に殺されそうになってるんです。


 ……ユノに関しては若干俺が焚きつけた部分があるので自業自得ですけど。


「おい、タイタン」

「あぁ?」


 今度は何だよ!?こっちは今ユノを警戒しながらフルル先生と話しつつ、シアン姫をなだめる方法を考えるのに忙しいんだよ!これ以上脳のリソースを割かせるんじゃねえ!


 俺が苛ただしげに声をした方を向くと、そこには主人公ハルトが。こいつも剣技の講義とってたのかよ……


「女3人もはべらせてハーレム気取りかよ、流石貴族様は手が速いぜ」

「おい、野蛮人。その言葉は俺だけじゃなくシアン姫達にも失礼だ、謝罪しろ」

「はっ、誰がお前なんかに!貴族の権力でもぎ取った仮初かりそめのA組をかざして満足か?あぁ!?」


 ユノ の 攻撃!▼

 

 ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


 キィンッ!と固い何かがぶつかる音がする。俺のロングソードとユノのナイフが交錯こうさくした音だ。


「っち、やっぱり嫌い」

「会話終わってから相手してやるから少し待ってろ……ッ!」


 ハルトの言葉に反応したユノが俺に向かって斬りかかってきた。それをずっと警戒していた俺はなんとかユノのナイフをロングソードで対処出来る……ギリギリと刃物同士がぶつかり合う金属音がして、つばぜり合いの状態になった。


「女に手を上げるとか最低だぞタイタン!!」

「うるせぇ野蛮人、状況見てから言いやがれ……」


 主人公からの目には俺が襲いかかってるように見えてんのか!?ハルトは腰からさげていた剣を抜く。


「か弱い女の子を虐めるなよ!弱い者虐めしか出来ないゴミがッ!俺が相手だ!」

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