第33話 『悪役』と晩飯
売却所を出るとすでに日は落ちており、点々とある
俺とユノはその道を逆走する形で学園に帰っている。目的はもちろん食堂、さっきから腹減って仕方ない。
「おしえて」
「何をだ?」
「なぜ《首狩り》を躱せたか」
歩きながらそうユノに聞かれる俺。俺を殺すためなら何でもやる、そんな決意を感じて俺は素直に応えることにした。
「《首狩り》を発動した瞬間から再び姿を現すまでの時間は3秒。動ける範囲はスキル発動場所から5メートルまで……その範囲内にいなければ姿を現してからの対処は簡単だ」
「そんなに詳細に?」
「あぁ、覚えている」
「普通じゃない」
はぁ……馬鹿かユノは。
「その普通じゃない奴を殺そうとしてるんだ、お前が持っている『普通』を捨てなきゃ永遠に俺は殺せない」
「そう……わかった」
さっきとまでは違い、俺の言葉を聞くユノ。内心はらわたが煮えくりかえっているのだろう……だが貴族を、俺を殺すためにジッと我慢している。
「スピードは良いが手数が足りない。そもそも《投擲》で相手の視界を逸らして《首狩り》で落とす作戦は対人では有利かもしれないが、モンスターには効かない」
「ユノは対人さえ出来れば良い」
「貴族がモンスターを従えている場合もある。そんなときにお前は『対人しか出来ないから許して』でも言うつもりか?」
「…………」
押し黙るユノ。今まで自分が復讐の為にやってきた努力が足りないと言われてる気分なのだろう、口の端が歪み力が入っているのが分かる。
だが仕方ないんだ、ユノルートにおける貴族の息子との戦闘はモンスターとセット。今のユノじゃ、レベルも戦闘技術も足りない……
ここで折れたらそこまでの
その間に俺は強くなる、それだけ。
「今、なにをすべき?」
「あ?」
「ユノは、何をしたらいいの?」
ユノは真剣な目をしてこちらを見つめてくる。そうだな、まずは。
「飯を食おう。腹減って死にそうだ」
「ふざけ……」
『るな』と続けようとしたところで、ぐうぅ……とユノのお腹が鳴く。お腹をバッと抑えたユノは目をそらしながら首を縦に振った。
「……わかった」
「ん、よし」
腹が減ってはなんとやら。俺たちは食堂へと歩みを進めた……ん?そういやユノって――
「はぐっ、もぐもぐ……」
「…………」
「?食べないならもらう」
「俺の飯に手を伸ばすなアホ」
伸びてきた手をペシリと払う。そうだった……ユノって滅茶苦茶大食いだったんだ、プレイヤー間では『こいつの食費が苦学生である理由なんじゃねえの?』って攻略サイトでネタにされていたっけ。
俺の目の前のテーブルには大盛りの料理達。それがドンドンとユノの口の中に消えていくのがまるで手品のように思えてきた。
売却所でユノは様々なモンスターのドロップ品をガラガラと出してその全てをお金に変えて……そのままドカッと食堂で全部使ってしまったんだよ。
というか……
「~~~~っ」
「……俺のも食えよ」
「いいの?じゃあもらう」
俺は自分のオムライスをユノに渡す。美味そうに食うんだよコイツ、今まで
見てて飽きないな、ユノが飯を食うところ。俺がボーッとユノのことを見ていると……
「……恥ずかしいから、みないで」
「あぁ、すまん」
ユノが小さくそう呟くように言った。確かに、人が飯食ってるとこをじーっと見ているのは居心地が悪いだろう。オムライスもあげちゃったし、寮に行くか……
俺は席を立って食堂を後にしようとすると、袖をユノに捕まれた。
「なんだ?」
「あ……あ……あり、が、とぅ」
驚いた、ユノから感謝されることになるとは。俺が目を丸くしていると早口でユノが弁明する。
「あなたは嫌い。だけどチヨが、『何かもらったらお礼しろ』って……言ってたから」
「…………」
「あなたを殺したいのはホントだから……それだけ」
それだけだから、とユノは俺の袖を離して飯を食べるのを再開する。俺は一心不乱に食べているユノの背中をしばらく見つめた後、食堂をでた。
相手が貴族じゃなかったら普通に礼儀正しい良い
俺が貴族じゃなかったら……って、それは無いか。俺は外に出て、星空を見上げて考える。
俺が貴族じゃなかったら、なんて仮定は要らない。出会ってしまったし、殺されかけたし、ユノの
その結果が死亡フラグの回収なら、俺の努力が足りなかっただけだ。最強になる、シアン姫を強くする、ユノの運命を変える……大変だが、両立は可能なはずだ。
「やってやるよ、全部。俺の意思は……俺のものだ」
燃えている、俺と
そうだよな、まずは明日から始まる剣技の講義からだ。才能が無くたって知識はある、あとは努力していくしかない!
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