第25話 『悪役』と結果

 俺、完全復活!というわけには行かず。あの後身体に少し力が戻った俺はすぐにフルル先生から離れて保健室のベッドに戻った。


 フルル先生は「珈琲を入れ直してくるついでに、食堂で君の分の食事を持ってくるよ」と保健室を出て行った。一人の時間が出来る。


 ……俺の命も守る、か。俺はそのフルル先生の言葉を聞いたとき、タイタン君が言っていたことを思い出していた。


「『意志を曲げるな、『天才』という言葉におごるな』、か」


 最強になるためには、自分も守れるようにならないといけないのが最低条件。だけど、自分の決めた意思を貫くためにはそれだけじゃダメだ。


 あらゆる手を尽くせ、あらゆる努力をしろ。タイタンがやってきた15年の先を、俺が切り開くんだ。


「動けるようになったら、剣を振りてぇな……」

「だったら私と、剣を交えなさい!一人で秘密の特訓なんて不公平です、不満です、ズルいです!」

「シアン姫……戻ってきてたんですか」


 ポツリと呟いた独り言が、まさかの戻ってきたシアン姫に聞かれてしまっていた。顔はまだ赤いままだが、時間が経って冷静になったのか剣に手を掛けていない。いや、病人に会うのに剣が必要な場面って無いと思うんだけどな?


「昨日約束したじゃないですか、口では教えづらいのでしたら実際に剣を交えて教えると」

「いや……した覚えがないのですが」

「だったら命令です!やりなさい!」


 私のパ、パンツ見たんですから……と恥ずかしそうにスカートを抑えながら言うシアン姫。


 いや、見たというか結果的に見えたというか……と、流石にこれを言ってしまうと折角回避した死亡フラグがまた《刺突一閃》と共に襲来してしまう。


 それに昨日の戦闘で気になることが出来たので俺としても受けるメリットがあるし、って。


「あー、そういやアンデルセン王に剣折られてたっけ。学園に頼めば予備の剣とかあるか?」

「先生に聞いてみれば良いんじゃないでしょうか?そうそう、このカグラザカ学園って凄いんですよ!『生徒の自主性を重んじる』という学風に恥じない、立派な訓練場がありまして……」


 シアン姫が初日のホームルームに出られなかった俺の代わりに、カグラザカ学園にある施設を教えてくれる。


 食堂には美味しい料理が揃ってるとか、授業の数が無数にあって履修に迷うと、か……


 そうだ、剣より重要なことがあった。俺、『クラス分け』で何組になったんだ!?俺、シアン姫を麻痺させておっぱい揉んだだけだぞ?


 事実だし事故だったんだけど、自分で言ってて変態度高いと思う。


「すみません、シアン姫……俺、何組か分かりますか?」

「え?あぁ、そう言えば朝の『クラス分け』の結果。見れてませんでしたもんね」


 王女にこんな雑用をさせるなんて、世界広しと言えどもタイタンさんしかいませんよ?とイタズラっぽく笑うシアン姫。


 いや、雑用を頼んだ覚えも無いしワンチャン見ててくれてないかなぁ……なんて思ってただけだから別に顎で使ってる訳じゃありませんからねシアン姫?


 止めてくださいよ?アンデルセン王にそれ話すの。『ワシの可愛いシアンを顎で使うなど笑止千万!』とばかりにアンデルセン王の折檻せっかんが再び始まるのが目に見えるから。


「タイタンさんのクラスは……」

「クラスは……?」

「クラスはぁ~……?」


 ここぞとばかりに焦らしてくるシアン姫。目が笑ってやがる、俺が結果を気になっていることを良いことに完全にもてあそんでやがるぞコイツ!


 良いだろう……だったらこちらも考えがあるぞ。タイタン悪役になると決めたんだ、この程度で折れると思うなよっ!


「早く教えろノロマ。民でもてあそぶなど、上に立とうとする者として0点の振る舞いだぞ」

「……っ」


 できる限り横柄に、そして誰にもびない態度を貫く!どーだ、いくらシアン姫と言えども俺はへりくだる気はねぇぞ!?


 サッと顔を赤くするシアン姫。「全く……不敬ですよ」と小さく聞こえた、あれ?アンデルセン王の折檻ルートが近付いただけじゃね?やっちまったー、冷や汗がダラダラと出てくるぜ。


「もう、貴方って人は……A組ですよ。おめでとうございます」

「そうか、A組か。……良かった」


 その言葉に一安心する俺。A組になんとか入れたようだ、もちろん『クラス分け』は入学初日の1回というわけではなく複数回あるが……


 この最初でA組に入れて、曲がりなりにも自分がやってきた努力が報われたような感じがして。


 俺はグッと拳を握りしめる。シアン姫がこちらを見ているのにも気がつかず、俺はスライムに死闘を繰り広げていた日から強くなった実感を強く噛みしめていた。


「おや、お邪魔だったかい?折角食堂から美味しい料理を持ってきたのだが……後にした方が良かったかな?」


 そんな時、保健室の扉が開いてフルル先生が戻ってきた。手には美味しそうなレバニラ炒めが!そういやゲームではご飯に関しての絵が細かく描かれてなかったから、食堂にどんな料理が置かれているか分からなかったんだよなぁ!


 レバニラ炒めのタレの匂いが保健室に充満する。その匂いを嗅いだ俺の腹はギュルルルル……と大きな音を立てた。


 恥ずかしい、思わず顔を赤らめると、フルル先生とシアン姫が笑っていた。し、仕方ないだろ!昨日から食べてなかったんだから。


「ふふっ、丁度良かったようだ。シアン王女様、この机を彼のそばに置いてくれるかい?」

「あ、はいっ」

「ボクが非力のせいで王女様に手伝わせてしまって申し訳ないね」

「いえ、これぐらい……」


 料理と机が運ばれてくる。早く、早くしてくれ!さっきからよだれが止まらないんだ!

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