第17話 『悪役』と時間稼ぎ

 訓練場に変な緊張感が走る。衛兵達とアンデルセン王が俺を睨み付けながら武器を構えていた。


 一方の俺は丸腰で交渉材料は今盾にしてるシアン姫のみ。念のため剣を握れないように両腕にパラライズを掛けておこう……


「くそっ!娘を盾にするとは卑怯な!恥を知れ!」

「こうでもしないとアンデルセン王は私の話を聞かないじゃないですか!?」

「そんなことはない!」

「ならその『縮地』の構えを止めてもらえません!?」

「貴様……ッ、『縮地』も知っておるのか!」


 あ、なんか墓穴掘ったっぽい。気を付けろ俺、ここは今……死亡フラグの地雷原だぞ!


 一息ついて緩んだ心を締め直す。命の危機がひとまず去ったことでちょっと気が緩んだようだ。


「グッ……お父様……」

「シアン!今助けるのでな、もう少しの辛抱じゃ!」


 シアン姫が逃げないように腰に手を回して固定する。もう胸は触らんぞ、学習したからな俺。


 近くにシアン姫が持っていたレイピアが落ちているが拾わない、というか武器拾おうと気をそっちに向けた瞬間アンデルセン王の『縮地』が飛んでくる。


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


「ふぅ……アンデルセン王よ、お互い『無かったこと』にしませんか?」

「無かったこと、だと?」

「はい」


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 ひとつひとつ、言葉を選んでアンデルセン王と交渉する。憎悪を抑えろ、俺の目的を再確認するんだ……


 メインの目的は『間者という誤解を解いて、カグラザカ学園に入学する』こと。つーかなんで『クラス分け』の戦闘をこなしただけでラスボス王様と戦わないといけないんだよ。


 サブ目的として『時間稼ぎをする』こと。アンデルセン王は剣技メイン……というか剣技しか使えない人、つまり。


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 アンデルセン王の剣に毒が入っている今、5%の継続ダメージがあの剣に入っている。


 時間稼ぎさえ出来たらあの剣は折れる。そうなればこの場で俺を止めることが出来るのは誰も居なくなる……まぁ、これは完全に戦闘になってしまった場合だけどね。


 俺は平和主義者!言葉を繋いでレッツ和平!


「監視の目を付けてもらっても構いません、『間者でないという証明』は悪魔の証明……今この場で私がどれだけ言葉を重ねても信用するのは無理でしょう」

「…………」

「私の望みは最初から1つ。『普通に生きること』です、先ほども言ったように私は『出来損ない』のレッテルを貼られてオニキス家を追放される愚か者」


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 ぐっ……冷静に言ってると思うけど、この言葉を言うだけでタイタン君から凄まじい黒い感情が溢れてくる。落ち着け、深呼吸だ。す~、はぁ~……


「貴族の生き方しか知らない私が世に出て何が出来ましょうか?何も出来ません。なので私はカグラザカ学園にて、一人で生きていける方法を探しに来ました」

「…………続けなさい」

「オニキス家には私よりも優秀な弟がおりますゆえ、私は家のしがらみにはおりません。『愚か者』を間者に選ぶ国など、それこそ愚かだとは思いませんか?」


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 はーい耐えてねタイタン君~。さっきから自虐するたびに俺に対して怒りや殺意の感情が流れてくるの分かってるから。でもここで釈明しておかないとあんたマジでここで死ぬよ!?


「つまり、貴様は自身を『利用する価値がない』と言うわけか?」

「はい」

「……ワシのスキルを知っているというだけで、価値はあると思うが?」

「だったら情報だけ抜いて殺せば良い。わざわざ間者としてアンデルセン王自身に近付かせるリスクを負う必要はありますでしょうか?」

「ふぅむ、一理ある」


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 よし、ちょっと良い方向に話が流れて行っている気がする。未だに敵対心は消えてないが、俺が一見武器を持っていないことも相まってなのか、先ほどまでの張り詰めた空気が少しだけ弛緩しかんした。


 代わりに俺の機嫌はどんどん悪くなっていく。あぁもう、不満そうにしないのタイタン君!


 膠着こうちゃくした状況、どちらか折れないといけないんだけど、どっちもお互いを信用していないから引くに引けない。


 だが、俺はアンデルセン王の剣をへし折ればシアン姫を解放しても良いと思っている。どちらにせよ、時間稼ぎは和平への道のりに通じている……はずだ。


「そもそも、私が連れてこられたのは過失による事故が原因です。『クラス分け』でシアン姫が相手になったのも偶然であり、戦闘中に胸を不用意にも触ってしまったのも偶然」

「なっ!何を馬鹿なことを言ってるんですか!2回も触っておいて!」

「そもそも胸当てに横から手が入ってしまう隙間があることがおかしいんですよ。それは防具を作った職人に責任があるのではなく、正確に数値を報告しなかったシアン姫に責任があるのでは?」

「くうぅ……ッ!」


 腕の中にいるシアン姫が赤面して悔しがる。そりゃそうだろ、そもそも王家に近付く間者なら印象最悪な状態で対面なんてしない。


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 なんか周りに居る衛兵達も「確かに防具って身体に合わないと困るよなぁ」とか「身体に合わない全身鎧なんて着た日には全身擦り傷だらけになるし」とか言って俺の言葉に同意している。


「そもそも間者ならワシらの印象が悪い状態で接したりはせぬか……」


 そんな間者こそ本物の『愚か者』じゃな、とアンデルセン王が俺の言葉に納得する。


「なぜワシの剣技を知っておるのかはまだ分からぬままじゃが、少なくとも間者では無いことは納得しておいてやろう」

「ありがとうございます……」

「じゃが、『今は』という但し書きをつけておくぞ。監視の目をつけさせて、不審な行動が見られた場合は即刻その首をはねてやる」


 そう言って衛兵に「下がって良い」と命令を下すアンデルセン王。いきなり呼ばれてシアン姫が人質にとられている状況で、下がって良いの命令が来た衛兵達は首をかしげながらもアンデルセン王に一礼して去って行った。


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 これは……危機が去ったと見ていいのか?


「さて、それでは……」

「はい。シアン姫、長らく窮屈きゅうくつな思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。今離しますね」

「よし、では折檻の続きじゃ!」

「えぇ!?」

「ワシはまだ娘の胸を揉んだことを許してはおらぬぞ!!そこになおれタイタンよ!絶対に裏切りたくないと思わせるほどの恐怖をその身に刻んでやるわ!」


 個人的な危機がまだ去ってなかったあああああああああ!?アンデルセン王が剣先を俺に向けた瞬間……


 無骨な直剣 は 57 の ダメージ!▼


 無骨な直剣 は 折れて 無くなった!▼


「あっ」

「ぬぅ!?」

「すみません、折ってしまいました……」


 カランカラン、と剣の真ん中が地面に落ちる音だけが訓練場に響き渡る。なんか微妙な空気感になりながら、俺は王城を後にすることが出来た。


 なんとか俺は生きて『クラス分け』のイベントを生き残れたのだが……そもそもこんなところに死亡フラグなんてゲームには無いんだが?


 これでまだカグラザカ学園生活の初日ってマジ?これからどうなるんだよ俺の人生、頑張ろうなタイタン君……

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