第9話 『悪役』とオーク

 そこに居たのは、イノシシの頭を持つ巨大なモンスター。筋骨隆々な身体には腰蓑こしみのしかつけておらず、迷いの森の奥にある巨大な木の下に座り込んでいた。


 その名は『オーク』。レベルは8、体力200オーバーのバケモノ……この『迷いの森』のボスと言われても納得出来るぐらいには、今まで戦ってきたモンスターと一線をかくす強さだ。


 対して俺のレベルは7。体力はなんと78という二桁台……『学園カグラザカ』の主人公のレベル7時点での体力は235と言えばこの数値が死ぬほど低いことがわかるだろう。


 オークの攻撃力は50、俺の防御力が装備込みでも20だから攻撃を3発くらえば即死、2発でも体力は瀕死状態レッドゾーンになる。


「ははっ!やっぱ弱ぇなぁ俺……」

――――ブモ?


 俺に気がついたオークが立ち上がり、地面に置いていた石槍を手に取る。


 俺も片手剣を抜き、オークに剣先を向けた。片手剣を握る手は汗ばみ、呼吸が少し早い……


 身体タイタン君が無意識に怖がっているのか。まあ無理もない、オークは格上の相手だからな。


「だがな……オークごとき殺れなきゃこの先、生き残れないんだよ!」


 オーク が 現れた!▼


 初期ステージ迷いの森のボスぐらい倒せなきゃ、お前の未来はないぜタイタン君!


 後このボス、レベル7の主人公なら通常攻撃だけで倒せるからなタイタン君!


「《パラライズ》!」


 さぁて、迷いの森での集大成……魅せましょうか!


 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 み、魅せれるといいなぁ!




 オーク の 攻撃!▼


 ミス! タイタン に ダメージ を 与えられない!▼


 ―――ブモオォ!

「うおっ!あぶねぇ!」


 突き出した石槍をすんでのところで回避する!

 攻撃の速さも威力もスライムとは段違いだ……ヒュンッ!というオークの石槍が鳴らした風切り音が顔の側で聞こえてひやりとする。


「《ポイズン》!」


 タイタン の ポイズン!▼


 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 対して俺の攻撃はこの通り、全然効かない。状態異常って確率でかるから、状態異常に耐性があるボスモンスターには効きづらいんだよなぁ……


「くっそ、理論上では耐性があるとはいえ状態異常にならないわけじゃないから《パラライズ》か《ポイズン》どちらか通ってくれても良いじゃんかよぉ!?」

――――ブモォ!

「あっぶね!」


 オーク の 攻撃!▼


 ミス! タイタン に ダメージ を 与えられない!▼


 嘆いていても仕方ねぇ、どちらにせよダメージを与える方法は《ポイズン》しかねぇんだから《ポイズン》ぶっ放し続けるだけだ!


 タイタン の ポイズン!▼

 

ミス! オーク には 効かなかった!▼


 タイタン の ポイズン!▼


 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 タイタン の ポイズン!▼


 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 タイタン の ポイズン!▼


 ミス!………


「ぜぇ……はぁ……どおしてだよおおおおお!!」

――――ブモッ!

「ガハッ……!」


 オーク の 攻撃!▼


 タイタン に 30 の ダメージ!▼


 やられた……っ!集中力が切れたところを狙われた!


 オークの石槍が俺の胸を突き、防具越しでもとんでもない威力が俺を襲う。たまらず俺は弾き飛ばされ、地面を転がった。


 だあぁぁいでぇ……《ポイズン》あたんねぇからって流石にキレちまったよ。


 かと言って他に方法なんて無い。ポイズンの毒で倒す、それ以外にタイタン君の勝ち目は存在しない。


 俺が地面に倒れている間にもオークが近付いてきているのが足音で分かる、俺は全身に走る痛みを無視して無理矢理立ち上がった。よし、骨は折れてねぇ……


「分かっていたことじゃねぇか、状態異常が効きづらい相手だって事は」


 作中のタイタンも完全耐性を付けている主人公にデバフを掛けられたとはいえ、その確率は5%だと攻略サイトに書かれていたな。

 完全耐性では無いにしろ、オークも状態異常に関しては耐性が付いている。それにしても外れすぎだけどね?


 これが物欲センサーってやつか……だったら!


「当たるまで引くのがゲーマーだよなぁ!?」

――――ブモ?


 俺は握っていた片手剣を放り捨て、オークに向かって全力で駆け出す。虚を突かれたオークは足を止め、驚いた表情をした。


「ガチャを回すなら10連信者なんだよ俺はぁ!《ポイズン》✕10!」

――――ブモォ!?


 タイタン の ポイズン!▼

 

 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 ミス! オーク には 効かなかった!▼


 ミス! オーク には 効かなかった!▼…… 


 くっ、ダメか?一向に顔色を変えないオークに歯がみする俺。一瞬の虚を突かれたオークも冷静さを取り戻し、石槍の穂先を俺に向ける!その瞬間……


――――ブモゥ……ッ!


 オーク は 毒 に かかった!▼


 ふらりとその屈強な身体を揺らすオーク。息は乱れ、よろよろと俺から離れるその姿はまさに毒がかかった様子そのもの!


「っしゃ……!っしゃ!」


思わず俺はガッツポーズする。これで勝てる、勝てるぞ!


 オーク は 毒消し草 を 使った!▼


 オーク の 毒 は 綺麗さっぱり 無くなった!▼


――――ブフゥ……

「うそ、だろ……?」


 勝ちを確信した瞬間、オークがした行動に俺は驚く。モンスターが……道具を、使った?

 どうやら俺の予定は現実というイレギュラーによって大きく狂ったっぽい。さて、打つ手が無くなったぞ俺……どうする?


 背中にヒヤリと冷や汗が伝った。

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