第三章 メイドのエリーと魔寄せの石 その5




 酒場の雰囲気はよくていい感じに酔っていた時にモロ村の長老が現れる。


 白髪の長老はサンタのように立派な髭で、黒いローブ姿に杖を持っていた。見た目はゲームやアニメに登場するテンプレキャラそのものだ。


「冒険者の皆様に、お願いがあります」


 長老がそう言うと冒険者たちが話に割り込む。


「何回来ても無理だっての。この村に居る冒険者じゃ、長老の依頼は受けれないよ」


 魔法使い風で三十代ぐらいのオッサン冒険者が呆れ顔で言う。


「そうそう、無理でしょ。討伐するのは上級モンスターだし」


 露出度の高い服装で、戦士風の若くてグラマーな女冒険者が言う。この人は召喚者で、さっき悪魔たちと話してる時にブラジル人とか言ってた。


「それに、命懸けで戦うには報酬が見合ってないと思いますよ」


 別の魔法使い風の若い女冒険者が言う。雰囲気的にこっちの世界の人だと思う。


 長老は、聞く耳を持たない冒険者たちの態度に落胆し、そのまま帰ろうとした。


「待て待て待てぇぇぇぇい、誰も聞かないなら、俺様が聞いてやんよ。ジジイ言ってみろ。酒のアテぐらいにはなんだろ」


 マルコシアスは魔法使い風の女冒険者の膝の上に座っており、いつも通り偉そうな口調で言った。面白がりやがって、からかう気満々やな。


「な、なんだこの生物は⁉」


 長老は目をぱちくりさせた後、マルコシアスを凝視する。


「ふへへへへっ、おいジジイ、少佐の演説ぐらい熱いパッション感じさせてみろ。そしたら今すぐ俺様が、クソモンスター倒してやんよ」


「無茶言うな。てか少佐の演説なんて知らんやろ」


「なんだよクソが、あの演説知らねぇやついんのかよ。子守歌として販売していいレベルだろが」

「いやいやいや、どんな子供に育つか怖いわ」


「だが、あの演説はなかなかいいものだ」


 サマエルも話に入ってきた。


「ってもうええわ。あの、長老すいません。こいつらは気にしないでください。話は俺が聞きますから」


 テーブルに長老を手招きする。


「おおぉ、冒険者殿、話を聞いてくれるとは有り難い、感謝しますぞ」


 長老は腰かけるとさっそくこれまでの経緯を語り出す。しかし周りの冒険者たちは白けた顔をしていた。


 話は簡単だ。村の食糧源となっているポイントに上級のモンスターが居着いて困っているというものだった。


 その場所では果物や木の実、山菜にキノコ類が豊富に採れ、畑もあるとのこと。そりゃまあ死活問題だし、モンスターを放置するわけにはいかないよな。


「報酬は、村が所有している宝物ほうもつの中から一番いい物をさしあげます」


「ヒャッハー、これでもかっていう、ロープレの王道依頼じゃねぇか」 


 マルコシアスは一気にテンションを上げ女冒険者の膝から宙に飛び上がり喜ぶ。相変わらず簡単に釣れる奴だ。少佐の演説とか関係ねぇし。


「くだらない仕事だ。まあ相手が上級モンスターというところだけが救いだな」


 サマエルはテーブルの端に腰かけており、クールに発する。


「テツト、やめておけ。お前が強いのは魔力で分かるが、相手は上級のモンスターだ。パーティーを組んでいないのに無謀すぎる。しかも報酬のアイテムがお粗末だ」


 マッチョな戦士風冒険者のマイケルが忠告してくれた。


 熟練のパーティーか勇者を目指す者でないかぎり上級モンスターとは戦わない、というのが常識のようだ。それ程に上級モンスターは強くて恐ろしい存在みたい。


 って言うか、めっちゃ腰抜けやんこいつら。女神のギフトを持ってないこの世界の人間ならともかく、召喚者は少しは頑張れよな。まあ死んだら終わりで強制送還だから気持ちは分かるけども。


 上級モンスターどころか魔王でも倒せる悪魔たちの強さを知る由もない冒険者たちは、次々に忠告してくる。


「みんな心配してくれてありがとうな。今はまだ話を聞いてるだけやから。で、長老さん、具体的に報酬ってなに?」


「『魔寄せの石』と呼ばれる紫の宝石です。不思議な事に、魔人族だけが感じるいい匂いが発せられています」


「うははははっ、マジでショボっ」


 マルコシアスは遠慮なく笑いツッコむ。


「匂いだけかぁ……」


「いやいや冒険者殿、宝石としても価値のあるものです。どうか討伐依頼をご検討くだされ」


 宝石もピンキリみたいだけどワンチャンあるかも。それに上級を倒せばいい原料が手に入るわけだし損はないか。ただここで引き受けると皆がうるさそうだし、後で内密にしよう。


「長老、ごめんなさい。やっぱ身の丈に合ってないので止めておきます」


 この時、やる気満々の俺の顔を見て全てを察した悪魔二人は文句を言わず黙って酒を飲んでいた。


「そうですか、分かりました」


 長老は肩を落とし酒場から出ていった。


「じゃあみんな、俺たちは明日の朝早くに出発するから、もう宿に帰って寝るわ。今日は楽しかった、またどこかで会おうな」


 別れの言葉を交わし酒場から出て長老を追いかけ呼び止めた。


「これは先程の冒険者殿、まさか依頼を……」


「はい、受けます、討伐依頼」


「なんと、まことですか⁉」


「任せてください。そのかわり報酬の事なんですけど、アイテムの他に、出せるだけでいいから成功報酬として、お金の方も欲しいなぁ、と」


「分かりました。倒してくだされば、お金もさしあげましょう」


「じゃあ交渉成立ってことで。あと、俺たちの事は内緒にしておいてください」


 ここに居る冒険者たちの面目を潰したくないからな。俺たちは規格外のチートやから倒せて当然やし。


「ジジイ、ちゃんと報酬用意しとけよ」


 マルコシアスは長老に面と向かって言う。


「あ、あぁ、問題ない……」


 長老はいまだ珍獣のような悪魔とどう接していいか分からない感じだ。 


「よし、じゃあ今から行くぞ」


 悪魔二人の方を見て言ったが、そのセリフに長老は「えっ、今から⁉」と驚く。


「そうこなくっちゃな。俺様がフルボッコにしてやんよ」


 マルコシアスは楽しそうに高笑う。 


 あまりに早い展開に長老はきょとんとしている。


 スゲー酔っぱらってるけど問題なし。体内に入ったアルコールは毒と同じ扱いなので簡単に魔法で消すことができる。


「すぐに帰ってくるので、寝ないで待っててくださいよ」


「も、勿論それは……」


 長老の家の場所を教えてもらい、さっそく出発した。


 この異世界には月に似た星が二つあり、その夜は雲が無かったため、月あかり程度でも二つあれば辺りは真っ暗ではなく、行動するのに支障はなかった。まあどんな暗闇でも、魔法書の力で昼間と変わらないぐらい視界はクリアだ。






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