第23話 二体の石像
武器を持ちながら迷宮ユグドラシルの二階を歩き回る。
俺は火属性剣を持ち、彼女は疾風の小太刀を手にしている。
これは一階の時に戦ったウイルオウイスプのように、剣で斬るといった単純な攻撃で倒せない相手を想定している。
迷宮では階段をまたぐたびに出現するモンスターの強さが変わるというのが常識だ。
この迷宮は、最初の階層から出てくるモンスターが強力だった。
二階からはCランク相当のモンスターに加えて、キキョウの祖国に生息するモンスターも出現するはずだ。
そうなった際、少しでも臨機応変に立ち回れるように彼女と話あってきめたのだ。
二階に上がってからというもの、俺と彼女は一言も言葉を発していない。お互いに目を合わせて意思の疎通をしながら慎重に迷宮を進んでいる。
こういう時、自分だけではないというのは心強い。
しばらくの間進んでいると目の前に石像が現れた。
人型で鳥の頭をした羽根を持つ石像と、四肢を地に着けた異形の獣の石像だ。
俺はキキョウを手で制するとその場に立ち止まる。
「キキョウ、あれがなんだかわかるか?」
俺の言葉に、彼女は真剣な表情を浮かべると静かに頷いた。
「あちらの、獣の石像ですが……。故郷の神社に飾られていた『コマイヌ』にそっくりです」
「そうか、俺は鳥頭の石像に見覚えがある。あれは、俺が潜っていた迷宮に現れるモンスター『ガーゴイル』の可能性がある」
「可能性があるとはどういうことですか?」
「厄介なことに、あの石像は本当にただの石像のこともあるんだが、もしモンスターの場合、近くを通り過ぎると不意打ちで攻撃を仕掛けてくる」
「そうであるならば、今のうちにこちらから先制してはどうでしょうか?」
キキョウの疑問に……。
「いや、それが……。ただの石像の場合、中にモンスターを呼び寄せる警報が仕込んであって、壊すと大きな音が発生し、大量のモンスターを呼び寄せてしまうんだ」
しかも、その音はしばらくやむことがないので、音がしている間はずっとモンスターを倒し続けなければならない。
「普通の迷宮に湧く、低レベルモンスターでさえ数が揃えば厄介なことこの上ない。それが大量となると、扱いを間違えれば全滅するぞ」
「確かに……その通りですね」
俺の言いたいことが伝わったらしく、キキョウは表情を暗くすると頷いた。
「そっちの『コマイヌ』ってのは動いたりしないのか?」
「神社に祭られているものですから。そう言った話はありませんね」
こうしてセットで出てきている以上、何か罠がありそうな気がするのだが、彼女が知らないというのなら仕方ない。動くかもしれないと念頭に置きながら対処するべきだろう。
「幸い、近寄らなければ攻撃してくることはないからな。ここで装備を整えてから挑むとしよう」
俺は無限収納の腕輪を起動すると、土の首飾りを二つ取り出す。ガーゴイルは土属性なので、つけているだけでダメージを減少させることができる。
「武器はどうする? ガーゴイルには火の攻撃が有効だけど」
「あなたが火属性剣を使うのであれば私はサポートに徹します」
彼女も火属性にする場合手持ちにあるのは『火の太刀』となる。
そこまで狭い通路というわけではないが、大型武器は取り回しが難しく、初見の相手では間合いが取り辛いと判断したのだろう。
彼女は現在装備している『疾風の小太刀』で俺を補助するつもりのようだ。
「じゃあ、俺が近付いて様子を見る。ガーゴイルが襲い掛かってきたらサポートを、もしそっちのコマイヌが動き出すようなことがあれば、対応を頼む」
「わかりました、おまかせください」
キキョウの返事を待つと、俺は石像へと近付いて行くのだった。
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