第22話 魔法と術の鍛え方

 長時間かけて迷宮内の階段を登る。


 俺は一度だけ二階に上がって周囲の様子を知っているので先行し、キキョウは後ろからついてくる。


 剣を抜いた状態の俺に対し、キキョウは『ウインドの巻物』を手に持っていた。


 もし階段の途中でモンスターと遭遇した場合、狭い中で二人が剣を振り回すというのは現実的ではない。


 そうなった際に、俺が前に立ち、彼女が魔法でサポートするとあらかじめ決めてあったからだ。


「私が前で敵を斬りたかったです」


 武器を振り回せないのが不本意なのか、キキョウがポツリと漏らす。


「仕方ないさ、俺の方が魔法の才能がないんだからさ……」


 彼女を納得させるためというわけでもないのだが、事実を口にすると少しへこんでしまう。

 自分の持つ属性剣で魔法を使ってみたり、巻物を使ってみたりしたのだが、いずれも起こせる現象が弱くて、とても戦闘につかえなかった。


「私だってそこまで得意というわけではありません。術は手すきの時に師匠から習っただけですし、この巻物や属性剣など、持っているだけで魔法や術を使えるなんて反則です」


 俺の住んでいた場所でも、キキョウが住んでいた場所でも、魔法や術を放てる道具というのは貴重なアイテムだ。


 確かに彼女が言うように、長い年月修練してようやく覚えた術や魔法を武器や巻物で簡単に再現されたら微妙な気分になるだろう。


「そう言えば、ライアスはこれまで魔法を使ったことがないのですよね?」


 ふと思いついたように、キキョウが確認してくる。


「ああ、俺のいた場所だと、魔法は一部の限られた人間しか扱うことができない特殊技能だったからな」


 階段を登り前を警戒しつつ答えた。


「なるほど、それなら威力が低いのは当たり前ですよ。魔法と術の両方を体験した私の考えですが、おそらく両方とも同じ力を元にしております。使用した際に身体から何かが抜けるのを感じませんでしたか?」


「確かに感じたな。急激に疲れて眠りに落ちたこともある」


「それが魔法と術を行使するための力です。普段から魔法を使わない人間はこの力が乏しいはずです。だから威力が低くてすぐに疲れてしまうのですよ」


「その言い方だと、鍛える余地があるみたいに聞こえるな?」


 彼女の言葉に俺は気になる点があった。


「ええ、私も最初、師匠から術を教わりましたが、それこそ覚えたての頃は一日で数回も使えば気絶していました。ですが、それでも師匠に使い続けるように言われて実行し続けた結果、こうして倒れることなく戦闘に使える威力になったのです」


 なかなかハードな訓練を課せられていたらしい。俺はキキョウの師匠の話を聞いて背中に汗が伝っていると……。


「なので、これからライアスは毎日、寝る前に魔法を使って気絶すればよいでしょう。その内力の量も増えて、威力も上がるはずですよ」


「俺は別に剣だけでもいいんだが……」


 強制的に毎日気絶して睡眠というのはあまりやりたくない。


 俺がキキョウの言葉に引いていると……。


「何を言いますか、ここには私とあなたの二人しかいないのですよ、身に着けられる技能はなんでも習得しておかなければ、強くなる道筋が見えているのに鍛えないのは怠惰というのですよ」


 真っすぐな瞳が俺を見る。これまででわかってはいたが、彼女は自分に厳しい修験者でもあるのだ。


「わかったよ。確かにキキョウの言う通りだ。俺たち二人で行動する以上、何でもできるようにしておいた方がいいだろう」


 話している間にようやく二階へと到着した。

 彼女は俺の横に並ぶと見上げてきて、


「では、早速今夜から始めましょう。慣れたら結界もあなたが張ってくださいね」


 とても嬉しそうに笑うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る