第12話 ウィルオウイスプ

「はっ!」


「ギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 耳に障る叫び声をあげて、モンスターが消滅していく。


「よし! 次だっ!」


 目の前には、宙に浮かぶ青白い炎がいくつもある、周囲を青く照らしているそのモンスターの名はウィルオウイスプ。


 身体のほとんどが炎でできているこいつは、時に体当たりで、時には火を鞭のように伸ばして攻撃してくる。


 炎の中心には核があるのだが、そのサイズは小さな珠程なので、確実に斬るためにはまず炎を消してやらなければならない。


「ギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 それには水魔法か大量の水や氷が必要になるのだが、俺は剣を振ることしかできないので、これまでこいつがいるせいで、奥へと進むことができないでいた。


「凄いな、これだけ接近してもあまり熱くないなんて」


 先日、新らしく解放された『武器』『防具』で購入した『水属性剣』『水の鎧』の効果のお蔭だ。


 これがあれば、斬りつけるだけでウィルオウイスプの炎を弱めることができ、やつに近付いたり炎の攻撃を受けてもダメージを軽減することができる。


「攻撃さえ通じるのなら、怖い相手じゃない!」


 そもそも一番難しかしいのは属性剣・属性鎧・水魔法を使える人間の確保なのだ。


 それを満たせなければ勝ち目がない時点で十分に凶悪なモンスターなのだ。


「こいつらを倒して先に進まないといけないな……」


 俺はそう呟くと、残るウィルオウイスプを片付けるのだった。





「おっ! やっと……上への階段を発見した!」


 迷宮に籠ること数週間。俺はようやく迷宮の階段を発見することに成功した。


「ひとまず。今日はこの先を確認したら帰るとするか」


 食料は、モノリスから買っている物と自分で用意した干物や焼き魚などもある。


 水に関しても、水樽をいくつかストックしてあるし、この水属性剣で出すこともできるので、迷宮を脱出するまでは十分にもつだろう。


 問題は、モンスターの強さと、どれだけ上があるかだ。

 外からぐるりと一周した限り、ユグドラシル内部は街くらいに広い。


 さらに、雲を突き抜けるほどの高さがあるので、どこまで登れば終わりが見えるのかもわからないのだ。


 いざ登り始めて途中で食糧と水が尽きたでは目も当てられないし、モンスターへの対処も問題だ。


 先程の、ウィルオウイスプのように、特攻武器を持っていなければ倒せない、もしく苦戦するようなこともあり得る。


 ソロで迷宮を攻略しなければならない以上、慎重に進むべきだろう。


 俺は二階に上がり、少し周囲を探索したのち、引き返して行った。





「あれ?」


 小屋に戻ると、違和感を覚えた。


 置いてある荷物の配置が動いており、作っていた干物がいくつかなくなっていた。


「動物でも入り込んだのかな?」


 この場所にモンスターがいないのは確認済みだ。


 魚を奪うような動物に覚えはないが、干物が減っているということはそう考えるしかないだろう。


「まあ、大したもんでもないけどな……」


 既に、相当な量をストックしている。今用意しているのは、近い将来に迷宮攻略する際、ptを消費せずに食糧を確保するため。


 ptを溜めていけば他の項目も解放される可能性があるので、節約しているのだ。


「とりあえず、今後は盗まれないように対策しておくか」


 俺はそう呟くと、獣に対する罠の作り方を思い浮かべるのだった。

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