第6話



 ――目覚めると、ハクは見知らぬ場所に居た。



 飛び起きれば、隣にはハクより少し幼い感じの女の子が寝ていた。

 他にも幼児に近い男の子が一人居る。


 全員が人間だった。


「……リリア? リリア??」


『リリアは居ないよ。今日からここが君の家だよ』


 振り向けば、部屋の入口にエイジンが立っていた。良い匂いのするトレイを持ち、ハクの目の前にあるテーブルへとそれを置いた。


 すると、その匂いにつられて男の子が元気よく飛び起きた。


「ご飯ー!」

「はいはい、フェリオのご飯はこっち」


 フェリオと呼ばれた少年は、エイジンに導かれて自分のご飯を食べ始める。

 隣に寝ていた女の子も起きて「おはよう、エイジン、ハク」とハクの名前を言った。


「ど、どうして私の名前を?」

「エイジンから聞いたの。貴女も施設の子になったんだってね。よろしくね。私はリデイラ」


 ……一体、どういう事なのか。


 混乱していると、エイジンは急にハクの分かる言葉を喋った。


「俺はリリアの従兄のエイジンだ。言葉、分かるか?」

「……分かる! エイジンは私達の言葉を喋れるの? リリアは喋れないのに……」

「俺は呪いが利かない体なんだ」

「のろい?」


「この世界はエルフ至上主義の世界だ。人間はエルフにとってただの愛玩道具おもちゃに過ぎない」


 エイジンは、ハクに分かりやすくこの世界について教えてくれた。

 その昔から、エルフと人間は相いれない関係にあったと言う。

 いつ亀裂が生じて、争いが起きてもおかしくない状況だったと。

 しかしエルフは非力だった。

 争いになれば必ずしも人間に負ける。


 だからエルフは戦わずして人間を虐げる手段に出た。

 世界に二つの禁呪を掛けたのだ。


 エルフと人間が互いの言語を理解出来ない、意思疎通が出来ない呪いを。

 人間から知識や認知能力を奪う呪いを。


 この世界に疑問を抱かなければ、この世界の意図を知らなければ、この世界でむやみに増えなければ、人間は生きていけるのだ。


 しかし禁呪が効かないエイジンは、この世界のルールに疑問を持った。だから秘密裡に、野良人間保護施設という体で人間を救っているのだと言う。


 驚くハクに、年齢の割に落ち着いているリデイラが言う。


「この施設に連れて来られた子はね、お勉強した後にエイジンのお屋敷で働くのよ。エイジンのお屋敷では、人間も自由に恋をして家族を持っていいのよ!」


「自由……?」


「だから私もたくさん勉強するんだ!」


 目を輝かせるリデイラ。

 きっと彼女は処置をしていないのだろう。


 家族、と聞くとネロを思い出す。

 何故いつもネロを思い出すと苦しいのだろう。


 ハクはエイジンに、野良人間について尋ねてみた。すると、やはり事情あってエルフに捨てられた人間達の事らしい。


「ハクは野良人間を知っているのかい?」

「うん、知っている子がいて……」


 エイジンは窓からシンシンと積もる雪を眺め、それから言った。


「なら、場所を教えてくれないか? 今年の冬は特に寒い。野良人間の子供が生き延びるのは、かなり過酷な環境だ」

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