金髪お嬢様、結果報告をする




 ******



「うーん、どうやら失敗のようですわね」


 次郎がいる生徒会室から少し離れた場所。


 特別棟の屋上に通ずる扉の横で、壁に背を預けながら雪乃は誰に向ける訳でもなく、そう呟いた。


「本当でしたら、興奮した次郎さんに襲われる事も想定しておりましたけど、残念ながら耐えられてしまいましたわ。……ふふっ、けど、内からの衝動を抑え込める程の理性の強さ。嫌いじゃありませんわ♡」


 雪乃は妖艶な笑みを浮かべると、嬉しそうに語り続ける。


「ふぅ、それにしても、次郎さんのあんな反応は初めて見ました。可愛らしい一面があるんですのね。ふふっ、新しい発見が出来て良かったですわ。流石は次郎さん、とても興味深い方ですね。ゾクゾクとしますわ」


 そんな事を言って、クスリと笑う。それから彼女は携帯電話を取り出すと、ある番号にへと電話を掛ける。コール音が鳴り響く事一回。電話を掛けた相手が直ぐに出た。


『お疲れ様です、お嬢様。ご首尾の方は如何でしょうか?』


 畏まった様な口調で電話に出たのは、雪乃の秘書である相良であった。


「残念ながら失敗してしまいましたわ。こちらの目論見が甘かったみたいでして、次郎さんは私の予想していた以上に我慢強く、欲情して私に手を出そうともしませんでした」


『左様でございますか。それは残念でございましたね』


 雪乃の言葉を聞いた相良は心底残念そうな声色で相槌を打つ。


「えぇ、本当に。ですが、そんな次郎さんもこの上なく素敵ですし、今回は私のお弁当を食べて頂けただけでも良しとしますわ」


 雪乃は先程、次郎が嫌そうにしながらも、自分が作ってきた手料理を美味しく食べてくれた事を思い出し、頬を緩ませた。


『畏まりました。それでは、今回の件に関してはこれで終了という事でよろしいのですか?』


「はい、問題ありませんわ。また次の機会を伺って、彼にアタックしてみますわ。その時はまた、ご協力をお願いしますわね」


『承知致しました。お任せ下さい、お嬢様。この相良、必ずやお役に立てる様、尽力させていただきます』


 雪乃は電話越しに頭を下げているであろう、相良の姿を思い浮かべた。


「期待していますよ、相良。貴方の働きには感謝しかありませんもの。頼りにさせて頂きますわ」


『勿体無き御言葉。身に余る光栄でございます』


「……ああ、そうですわ。ねぇ、相良。そういえば、今……次郎さんは何をされているでしょうか?」


『彼でしたら現在、まだ生徒会室に残ったままですね。こちらで確認出来る限りではほぼほぼ動いておりませんので、恐らくはお嬢様の手料理による効能に耐えておられる最中でしょう」


 雪乃の問い掛けに対して、淡々と答える相良。その答えに雪乃は満足げに微笑む。


「そうでしたの。ちなみにですが、その姿を写真に収める事は可能でしょうか?」


『残念ながら難しいかと。カーテンで窓を閉め切られている為、それは能いません。しかし、生徒会室内に仕掛けた監視カメラによる映像でしたら提供が可能です』


「あら、そうなのですの? それでしたら、映像を貰えるかしら。後でゆっくりと堪能したいと思いますので」


『畏まりました。それでは、その様に手配を致します。他に何か、必要な物はございますか?』


「いえ、特には何も。あぁ、一つだけありました。出来ればなのですが、その映像から音声を拾う事は可能なのかしら?」


『はい、大丈夫でございます。既にその様に準備を済ませておりますので、ご一緒にお送りさせて頂きます』


「ありがとう。それでは、引き続き次郎さんの監視をよろしく頼みますわよ」


『承知致しました。それとお嬢様。少しお耳に挟んでおきたい事があるのですが、宜しいでしょうか?』


「何でしょうか?」


『最近、この街の周辺で怪しい素性の輩が目撃されております』


「怪しい素性の方、ですか」


『恐らくは都心部の人間……この辺りの利権を求めて進出してきた連中だと思われますが、一応は警戒をしておいて損は無いかと。我々には直接的に関係はありませんが、お嬢様のお気に入りの彼が渦中に飛び込んでしまう可能性もあり得ますので』


「分かりましたわ。情報、感謝します。気に留めておく事にしますわ」


『はい、それでは失礼致します』


 相良はそう言うと通話を切った。雪乃は携帯電話を仕舞うと、寄り掛かっていた壁から身体を離し、教室へ戻ろうと歩き出した。


(それにしても、次郎さんったら。本当に可愛らしい方)


 雪乃は先程の事を思い返し、頬を緩ませる。


(私のお弁当を食べて、あんなにも嬉しそうな顔をするなんて。もっと、彼の喜ぶ顔が見たい。もっともっと、喜んで欲しい)


 雪乃は次郎の事を想うと、心が温かくなっていくのを感じた。


(ああ、次郎さん。本当に大好き。心の底から貴方を愛していますわ♡)


 雪乃は愛しさで胸が一杯になるのを感じながら、次郎への想いを馳せる。そうした想いが反映されてか、その歩みはスキップ気味になっていた。




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