一週間の宣戦布告
「と言う訳でペーネロープ。一週間後に再戦お願いできるかな」
翌日。
魔法の感覚を思い出すべく徹夜して指先を弄んだ結果、深夜テンションで自己肯定感に満ち溢れたボクは悠々と宣言した。
プラチナブランドのポニーテールを揺らして、気丈な瞳でボクを睨みつけた。
「……一週間?」
「ン、一週間だ。それでいい」
「なめてんの?」
ペーネロープは目にも止まらぬ速さで喉元に剣を突き付ける。
先日の木剣ではない。
本物の鋼鉄の剣。
よく手入れされたであろうそれが僅かに皮膚に食い込んで、ちょっとだけ痛いね。
「おい、ペーネロープ。いくらなんでもそれはやりすぎだ」
「外野は黙ってて」
「酷いなぁ、バロンも同じ仲間じゃないか゛っ」
ぐっと押し込まれる切っ先。
僅かに裂かれた肉が痛みを発し、命の危険を知らせてくる。
かなり地雷踏んだね。
でもそれは仕方ない。
こういう他ないのだから。
「……たった一週間で、何をしようって?」
「そう、だねっ……君の夢見たボクを、少しは思い出すことにしたんだ」
「……………………七日で、足りるって?」
「うん、それくらいなら出来ると思うよ」
「……私にあんな完膚無きまでに負けるようなお前に、そんなこと出来るわけないだろっ!!」
激情だ。
ペーネロープが一体どれだけの期間を費やして過去のボクを追い続けたのかは知らないけど、君にとってそれが逆鱗になり得るほどに重たいものだったんだな。
それに言葉は正論だ。
ボクだって自分が優れた人間だなんて思えるわけがない。
そりゃあ魔法は他人よりうまく使えたりするかもしれないけど、結局負けて一番になる事すら出来なかった男だ。
その後不貞腐れて現実逃避するような奴にこんな事を言われれば激昂するのもやむ無しだろう。
「────いいや、出来るよ」
それでも言う。
矛盾しててもおかしくなっても。
あの日敗北して壊れたボクの人生を取り返すつもりなんてない。
栄光も名誉も欲しくはないが、それを授けたい相手なら居るんだ。
「そっちこそ忘れた? ボクに負けたことを」
「っ……今のあんたは雑魚でしょうが」
「
眉間を顰めて睨みつけてくるペーネロープ。
ふふ、怖いね。
このまま喉を裂かれたらどうしようって恐怖がある。
バロンとかがいる手前そこまで派手な事はしないと信じたいけどな……
「…………その言葉、忘れないようにしなさい」
と、ボクの心配は杞憂に終わった。
そのまま剣を元に戻しちょっと出血したままのボクは放って、ペーネロープは訓練場を後にする。
「……いやあ、一時はどうなるかと思ったぜ」
「よく言うなお前……図太い野郎だ」
「口先と頭を回すのが魔法使いの仕事だからね」
指先に灯った淡い緑光で傷跡に触れると、すぐに出血は収まる。
流石に深手は治せないけどこの程度なら一瞬だ。
魔力という物はこんなにも便利なのに人類に普及してないのだから、そのブラックボックスというか、オーパーツっぷりがよくわかる。
「で、実際どうなんだよ。一週間でペーネロープに勝てんのか?」
「勝負は時の運とも言うだろ。それはボクの推し量る事じゃあない」
プランは用意してある。
ある程度の魔法使いなら誰でも出来るような簡単なものだが、この国では──いや、この部隊ならよく刺さると思う。
逆に言えば、この程度対応できなくちゃまともに魔法使いとやり合う事なんて不可能だ。
「ま、過去の栄光に過ぎないけど……仮にも国を背負って戦った身だ。その一端をお見せしようじゃないか」
「ふーん……期待しないでおく」
「酷いなぁ」
「俺は農民出身だからな。ぶっちゃけるとアーサーがどこまで凄い奴なのか全くわからんのだ」
ボクも自分を凄い奴だとは思ってない。
昔からそうだ。
ただ興味があって、とにかく魔法の事について知りたかった。
その過程で戦う相手が必要で、剣や体術もその流れで修めたに過ぎない。
楽しかった。
うん、あの頃は楽しかったよ。
黄金期と言っていい。
それくらい眩しい毎日だった。
「……そうだなぁ」
どう言い表そうか。
ボクは凄い奴じゃないが、この国でそこそこだった自覚はある。
勝負の勝ち負けにすらならない相手ばかりだった筈だ。
「今この国で幅を利かせている魔法使い達が束になってもボクには勝てなかった。もっと言うなら、姉上ですら昔のボクには指一本触れる事が叶わなかったよ」
「…………それが今じゃこの体たらくだもんな」
「おい。それを言ったら戦争だぞ」
「少なくとも俺の方が今は強いだろ」
「言ったな? ボコボコにしてやる」
この後訓練場でバロンにボコボコにされて蹲るボクの姿をペーネロープに目撃され、更に微妙な空気になってしまったのは秘密にしておきたい。
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