週刊エルフ 創刊号
漆間 鰯太郎【うるめ いわしたろう】
とあるエルフの森にて
※第一話の予備知識
トッポ・クルシュ
エルフ種のクルシュ氏族の青年で年齢は120歳辺り
クルシュ氏族の特徴である浅黒い肌と銀髪を持つ美丈夫だが平均よりも小さい身長がコンプレックス
元日本人らしい
エメル・ラジャン
エルフ種のラジャン氏族の女性で年齢は120歳辺り
ラジャン氏族の特徴である白い肌と絹の様なブロンドヘアーの美女だが平均より大きな身長がコンプレックス
元何人でもなく生粋のエルフで、トッポの幼馴染で彼の世話を焼きたがる。
自称トッポのフィアンセ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「トッポ? トッポー? あれ? いないなあ……」
成人して森を一つ任されたトッポの家にやってきたエメルだったが、いくら呼ぼうが反応はない。
普段はログハウスなる丸太だけで建てた彼の家の前の広場で焚火をして楽器を弾いているのだが今日は見当たらない。
だがエメルは首を傾げつつも勝手知ったるなんとやら、納屋から薪を持ってきて焚火を始めた。
大陸北端にあるこの森は今頃はもう寒い。
「あん? エメル、また来てたんかヨ」
そこにダルそうな表情のトッポがやってきた。
その声を聴いて弾ける様にエメルはそっちを見た。
エメルはトッポの許嫁でもあり、将来は結婚する相手だ。
それだけに既に女房気取りである。
しかしトッポの姿はあんまりだった。
「え、ちょ、え? トッポ、何その姿……」
「ゴーラのジジイとの合作だ。すげえだろぉ?」
確かに凄かった。
酷いって意味で。
トッポの姿はなんとも言い難い。
まず何かのふわふわの生地の茶色い物体である。
ちなみにゴーラとは山5つ先の鉱山街で鍛冶屋を営む気さくなドワーフである。
トッポの無茶ぶりを「本当にトッポは仕方ねえ奴だなあ……」と一度は呆れるが必ず叶えてくれる素敵なドワーフである。
身長は小さいが氏族の中でも特に整ったトッポの顔だけが丸く布の中から浮いている。
ここらの人にはわからないが、地球で言うならマヨネーズのチューブを逆さにしたような形と言えばわかりやすいか。
ただし足の部分はわかれているが。
そして硬直するエメルを鼻で笑うと、トッポは焚火の横に腰を下ろした。
非常にシュールすぎる光景にエメルはのまれた。
「えっと、トッポ、それ何?」
「これ? 見てわからん?」
「わかんないよぉ……なんか怖いよぉ……」
「これはな、歩ける寝袋だ。あったけえぞ? そろそろ冬だろ? これで安心だ」
「ええ……」
超イケメンがドヤ顔でエメルを見る。
キリっとしてるが姿が姿だけに破壊力が凄い。
そしてトッポはスッと手を差し出した。
「えっと、何かな?」
「分かってるって。皆まで言わせんな。ちゃーんとお前の分も用意してあんだよ。はいこれ」
エメルの前にズイっと突き出される歩く寝袋。
トッポはドヤ顔を継続しながら「お前女だし赤くしたぜ?」
恩着せがましいが謎の圧におされエメルは受け取った。
「………………」
「………………」
わかるな? と言う表情のトッポ。
いや、あの、乙女の尊厳的にこれは……と言う表情のエメル。
やがて……エメルは覚悟を決めた。
この男はテキトーが服を着ていると両親から褒められるタイプのちゃらんぽらんで、言い出したらこっちの話を聞きやしない頑固さがあるのだ。
生足が艶めかしい草色のチュニック姿のエメルは頬を染めながら寝袋に足を入れた。
ただ謎の服を着ているだけなのに、イケナイことをしている気分になるエメル。
そして茶色と赤の残念なエルフが焚火を囲んで座る。そして、
「トッポ」
「ん?」
「これ……凄いね……どうしよう脱ぎたくない」
トッポは満面の笑みでサムズアップした。
そしてその日は二人とも焚火が消えるまでそこに並んで座っていた。
エメルが彼によしかかると、トッポも寄りかかる事を受け入れ、二人の影は重なった。
「…………んふっ。トッポ、あったかーい」
「そうだな……」
もちろん歩く寝袋のお陰であるのは言うまでもない。
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