コスモス・ファミリー

樹村 連

プロローグ

 アメリカ合衆国(メリケニア)のサウスレベッカ州は宇宙開発の新たな実験場、そして技術の宝庫として、2030年頃には世界規模で知られるようになった。多くの人々が宇宙へ憧れた。地球の外には何があるのか。ユーリイ・ガガロフが宇宙空間へ初めて行った事は言わずもがなで、フットストロングらは月へ到達しベザスらは火星まで到達できた。しかしそれはあくまで探検、未知への挑戦であり決して開拓の域には届いていなかった。

 サウスレベッカ州に本社を置く国際企業『ブラフマン』は宇宙ステーションを開発した。それは今までのような軌道上に浮かぶ施設、と言った形のものではなく、滑走路から飛び立ち、旅客機の如く旅をできるというまさにサイエンスフィクションの世界のもの、そのままであった。世界中が『ブラフマン』を賞賛した。『ブラフマン』のCEOにノーベル平和賞が与えられたほどだった。

 2040年に飛び立った最初の自由型宇宙ステーション、『カンバー』を皮切りに多くの人々が宇宙へと向かっていった。自由型宇宙ステーションは宇宙空間に集落を作るのとほぼ同じであり、こぞって宇宙へ移住したがる人が増えた。宇宙市民権の配布をすべきかが国連で話し合われたほどだ。『ブラフマン』の作ったプロトタイプ移民船型宇宙ステーション『ナバマーン』も宇宙へ行く機会を心待ちにしていたのだった。

 

 そんな宇宙時代の裏には地球が未曾有の危機にあることを示す二つの出来事があった。

 まず一つ、世界を二分する戦争。ヨーロッパの国々はアジア諸国の強大な国家『シナ』、『ヒンドゥス』との間で経済的格差が開きすぎたために互いのナショナリズムを不要に刺激し合うこととなった。またかつての大昔に繰り広げられた冷たい戦争の影響も抜けきらず、ユーラシア大陸は混乱に満ちていた。一方でメリケニアはもはや国内のみでしか力を誇示出来なくなり、中南米の『エスパニョーラの子』に対する締め付けやアジア極東の『倭』における覇権も形骸化していた。そして2035年にレバントとフレンチで起きた同時多発テロをきっかけとしユーラシア大陸は再び戦争状態になったのである。が、国連の形式的な介入と双方の歩み寄りもあり、事実上の休戦状態に落ち着いた。だが散発的な武力衝突は日常茶飯事になってしまっていた。

 もう一つが地球規模の環境変動である。2028年に南極の巨大な氷の柱『アイス・トーテム』が崩壊した結果、オセアニアやパタゴニア、マンデラスタンに津波が到達。海面上昇も引き起こした。アメリカ大陸では極度の乾燥による森林火災が頻発、多くの州が犠牲になった。『シナ』『ヒンドゥス』はこれらの災害に今や背を向けてしまっているのだ。『倭』においても例外ではなかった。『倭』はもともと災害大国だっただけにインフラが一度壊れると完全な再建まで時間がかかり、国力衰退に直結した。なんと言っても2024年に起きた『江戸超弩級大型地震』がそれであろう。かつての首都が崩壊した『倭』は岡山へと遷都を決めた(海外からはドカタスタンと呼ばれる)。しかし地震だけでなく、台風や飢饉も起きており打つ手が尽きかけていた。


 宇宙への夢は現実になりつつある。人類の夢、いや、野望はどこへ向かおうとしているのか。人類は地球の覇者という立場には留まらず、宇宙をも支配しようとしているのだろうか。そんな事を考えている間にも宇宙開発は進み、人類はあるもの全てを食い尽くしているのだ。

















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