朝比奈くんは友達が欲しい!

橘 はさ美

ー プロローグ ー

少女の追憶

ある中学生の女の子は、上手く周りに馴染なじめず、いつも自席で孤独に本を読んでいた。

彼女の雰囲気は暗く、友達も居なかった。


彼女の目に映る光景は全て色せていて、唯一の楽しみは、本だけだった。

本なら、何も言わずとも、書いてある事全てが理解出来るし、何かを察する必要も無い。



ある日彼女は恋をした。

相手の男の子は、お楽しみ会の時に

体育館の端っこで1人体育座りしていた彼女に、

「どうしたの、せっかくなんだから遊ぼうよ」と手を招いた。

今に至るまで、周りの人達は彼女を放置していた。

見て見ぬふり。


彼女は遊ぼうと言ってくれた事を非常に嬉しく思い、他の人達と一緒に、ドッチボールをした。

それはとても楽しかった。

世の中には、こんなに楽しい遊びがあるんだと、この時初めて知った。


それ以来、彼女は遊ぼうと言ってくれた男の子と遊ぶようになった。

毎日の様に学校で約束をして、家に帰ったらすぐに着替えて、公園に遊びに行く。


遊んでいくうちに、

彼女は男の子を好きになっていた。

男の子が、他の女子と楽しく話しているのを見て、

彼女は不快に思った。

その感情を、初めて知った。嫉妬しっとなのだ、と。



さらに日が経つにつれ、彼女は男の子に告白しようと、決心した。


いつもの様に公園で遊んだ後、彼女は帰ろうとする男の子を呼び止めた。

そして彼女は、緊張に打ち震える心を抑え、必死に声を振り絞った。「私ね、実はあなたの事が・・・」

何かを察したのか、

男の子は気まずそうな顔をしていた。

少しうつむいている。

だが彼女は言葉をつむいだ。


「好きになっちゃったの。付き合って欲しいんだけど、いいかな?こんな私でも」


男の子は、5秒程逡巡しゅんじゅんした後、こう答えた。


「ごめん。君とは付き合えない」


「なんでか、聞いてもいいかな」


「だって、君はその、暗いから、一緒にいると周りも離れそうだったから」


その言葉を聞いた瞬間、時が止まったように感じた。断られるかもとは予想していたが、失恋がここまで息苦しいものだったとは思っていなかった。

彼女は無理に笑顔を作り、「そっか。ありがとう」と答えた。



男の子と別れた後、彼女はあふれ出そうな涙を我慢しながら帰り道を歩き、家に帰った。

自分の布団で沢山泣いた。

そして彼女は後悔した。

告白なんてするんじゃ無かった。

今までの関係が1番楽しかったのに、と。


だが彼女には、向上心があった。

自分を磨き、沢山友達を作ってから、見返してやろうと堅く決意した。


その後彼女は、まず友達と話せるようにするため、話す話題を探すことにした。

毎朝見ないニュースを見て、これ話せるかもと思った話題はすかさずメモをした。

そして教室で話している女子達の話に入って、自分から話を広げた。


次第に、話せる人は徐々に増えてゆき、遊ぶ友達も増えた。化粧も覚え、服装も最近の流行りを調べ、自分を美しく着飾った。


そうして高校へ入学し、高校でも順調に友達を増やした。もはや昔の彼女の姿は跡形あとかたも無くなっていた。


だが、中学生の時に言われた台詞がトラウマになり、好きな人は二度と出来そうも無かった・・・

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