第10話 昨日より今日、今日より明日

 五日目。


「君は妃を選定しなかった理由を聞くためだけに、メイドとしての教養を身につけてまでここに来たのか。半年もかけて」


「理由を聞いて、文句の一つくらい申し上げようと思っていました」


「見上げた行動力だ。折角の機会だが、文句は言わなくていいのか?」


「父と家を救ってくださったので、もう文句はありません」


「そうか」


「それにしても、よくお気づきになられましたね。私の顔をご存知でしたの?」


「一度見た者の顔は覚えている。君は、あの日薄紅のドレスを着ていたな」


「……驚きました。あれほどの数の令嬢がおりましたのに」


「皆、覚えている。私のために足を運んでくれた者たちだ」




 十日目。


「殿下、お茶が冷めてしまいますよ」


「次の駒を動かし終えたら飲む。今日はこの手までは進めたい」


「私はもう殿下の次の手に対する手も考えておりますわ」


「私がどこに置くのか分かるのか?」


「ええ、三パターンほどに絞ってあります」


「君の想定通りの場所には置かないようにしよう」


「私もそれを祈っております。その方が楽しいですし」


「ここはどうだ?」


「そこでしたら、ここに」


「……想定通りか?」


「ええ」


「そうか。では、もう一手進めよう。いいか?」


「はい、喜んで」




 日に日に勝負は進んで、茶会の時間は長くなり、そして十四日目がやって来る。私達の勝負は、決着を迎えようとしていた。

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