第9話 夜茶会の始まり
夜茶会一日目。
「女性で駒の動かし方を知っているのは珍しいな」
「父と兄が家でしているのを見て覚えました。これをしている間は、父も兄も私と二人で話をしてくれるのが嬉しくて、長く遊べるよう強くなりました」
「そうか」
「殿下は師から習ったのでしょう? 王族ならば、盤上遊戯も強くなければならないと」
「ああ、そうだ」
「では私が勝てば、学ぶより遊んで覚える方が身につきやすいということになりますね。つまり、遊びにも価値はあることの証明になります」
「君が勝てばな」
二日目。
「殿下はどうしていつも無表情なのですか?」
「感情が顔に出るのは、政治の場では損でしかないと学んだ」
「また『学んだ』ですか」
「教えられたことをそのまま受け入れているわけではない。私なりに考えた結果でもある」
「政治の場以外でも無表情じゃないですか」
「王族である限り、どこにいても政治の場であるようなものだ」
「なるほど。それはそうかもしれません。大変ですね」
「もう慣れた。それに、大変というのならば誰もがそうだろう。民も明日の衣食のために働いている。それぞれに大変なはずだ」
「皆があなたに心酔する理由が、少し分かりました」
「そのような人物であることも、王族たる者の務めだ」
三日目。
「殿下、昨日の話ですが、ここも政治の場ですか?」
「そうではないとは言い切れない」
「それはつまり、私が何かを企んで殿下に近づいているとのお考えで?」
「やはり、そうではないとは言い切れないな」
「企んでいるのはそうかもしれません。私、殿下の表情が動くのを見てみたいですもの」
「表情筋の動かし方などもう忘れた」
「それは、殿下を負かしたときの表情を観察して判断します。ぜひ悔しそうな顔をしてもらいたいですね」
「笑わせたいと言った者はいたが、そんなことを言った者は初めてだな」
「あら、その方は殿下を笑わせられたんですか?」
「いや」
「ふふ、腕が鳴りますね」
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