第3話 疼く好奇心

「そちらの困窮については、父上もご存知だ。近いうちにご高配をたまわることになるだろう」


 ありがたい話ではあるが、やっと返って来た答えとしてははなはだ不満足であった。


「ありがとうございます。しかし、私の質問へのお答えにはなっておりません、殿下」


 どうやら怒りを買ったわけではないようだから——温厚という噂は本当なのだろうか—―斬首は免れるかもしれない。しかし月王子とこうして対面できる機会など、いずれにせよ二度と訪れないだろうと思うと、どうしても聞いておきたかった。何しろ命がけでここまで来たのだ。食い下がった私を、王子はなおも表情を動かさずに眺めている。


「あなたが納得するような答えは返せない」


「ではお気に召す令嬢がいなかったから、という理解をしてよろしいですか。名君の器と評判の殿下が、ご自身の都合で多くの者の矜持と期待、そして苦労を踏みにじった、と」


 ここまで言っても、王子は眉一つ動かさなかった。この人は本当に血の通った人間なのだろうか。


「それで構わない」


 そうとだけ言うと、王子は私の脇を通り過ぎて行った。身分を偽って潜入した私に罰は与えなかったが、そうまでして欲した情報もまた与えてくれなかった。


 本当に好みの令嬢がいなかったからなのか。どうも違う気がするから真実を突き止めたいし、仮に本当だったとしたら、王子は世間が噂しているほどの人物ではなかったということで、化けの皮を剥がしてやりたい。令嬢としての悪癖である好奇心を刺激されてしまった私は、王子に咎められなかったことをいいことに王城に留まることにした。王子の本音、あるいは本性を必ず暴くと心に決めて。

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