月明かりは死を照らす

名波 路加

 

 淡い光が、まるで白夜のように不気味で神秘的な空間を広げていた。ディルは暫く歩いた後、背負っていたステリを手頃な岩場にそっと降ろした。ここなら、ステリが愛する月が綺麗に見える。


 月なんて、すぐに見つかると思っていた。月のような衛星を持つ惑星は無数にある。だからステリを喜ばせることは容易なはずだった。

 ディルはステリを連れて、数えきれないくらいの惑星を訪れた。でも何故か、ステリの故郷で見た月と同じような衛星は見つからなかった。


 ディルにとって、ステリは不思議な生き物だった。ステリの故郷では、そこで暮らす生き物全てが、ほんのひとときを過ごしたあとに目を閉じる。ディルにはその現象も、それによってもたらされる結果も、理解できなかった。

 ステリは、ディルとはいつまでも一緒には居られないと言った。目を閉じるまでのほんの少しの間だけ、ステリはディルのことを好きなのだと。それはステリやディルが、月を見て綺麗だと思うことと同じなのだと言った。

 ディルには分からなかった。“いつまでも”が叶わない、その意味が分からなかった。


 ステリは月を愛していた。それならばと、ディルはステリの手をとって、星空へと空高く泳いでいった。ステリに、この広い宇宙にある月を沢山見せてあげよう。そうすれば、ステリはわざわざ目を閉じることはしないだろう。きっといつまでも同じ惑星に居るから、退屈して目を閉じてしまうんだ。ならばもっと、綺麗な月を見せてあげよう。ステリがいつまでも、目を開けていられるように。


 新しい月を見つける前に、ステリは目を閉じてしまった。きっと故郷を離れてから長い間月が見れなくて、退屈してしまったのだろう。ディルはステリにもう一度目を開けてもらうために月を探し続け、やっとこの惑星に辿り着いた。優しく光るこの惑星の月は、ステリの故郷から見える月のように美しかった。







 ステリ、目をあけてごらん。君の愛する月を、その目で見て。







 ステリは優しく微笑んだまま、目を開けない。二人は月の光に、いつまでも照らされていた。

 ディルがその目から流れるものの意味を知るのは、もう少し先のことである。

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