30. 狼少女とドナルの邂逅
冒険者ギルドへと装備を届けにきたんだけど、ドナルの奴が乗り込んできているせいで待ちぼうけを食らうはめになってしまった。
それにしても、獣人を排斥するだけに飽き足らず、裏では支配下に収めて強制的な労働を強いていただなんて……。
やっぱりこの国は信用できないな。
トランスタットとの交易は続けてもいいけど、情勢が変わるようだったら隣国へ交易相手を変えていいかもしれない。
隣の国は獣人たちの国家だけど普通に人間族も暮らしているし、僕のようなクォーターだって珍しくないはず。
偽装を取り外して様子を見に行ってから商売になるかどうか検討しよう。
「うー……。アーク、まだ待たなくちゃダメ?」
我らが姫君、ルナは既にしびれを切らし始めているようだ。
なんとかなだめないと。
「もう少し待て。ドナルの奴に出くわすと絶対に面倒くさいことになる。そうならないためにもギルドの職員が気を遣ってくれたんだ。もう少し耐えよう」
「わかった、もう少し待つ……」
ルナはじっとしてるのが苦手だから仕方ないのだろうけど、ここは我慢してもらうしかないな。
それにしても、ずいぶんと待たされる。
そのままひたすら待たされ続け、ギルドからの差し入れということで昼食も食べた後、さらに待ってからようやくダレンさんがやってきた。
午前の早い時間から来て待っていたのだからドナルも相当粘ったな。
「おう。来てくれたようだな、アーク、ルナ」
「ええ、装備の納品に。ダレンさん、疲れてませんか?」
「疲れてるよ。朝から癇癪爺の相手を続けていたんだ、少しは労ってくれ」
「はいはい、お疲れ様でした」
「ぞんざいだな」
「ドナル相手にまともな対応をするからですよ」
「そうは言われても今回ばかりはな……」
やけに疲れているけどなにがあったんだろうか?
普段なら文字通り蹴り出すはずのドナルを相手にするだなんて。
「それで、一体なにがあったんです? ドナルの奴の話を聞かなくちゃいけないほどの話って」
「ん? ああ、この街に住んでないお前にはあまり関係のないことなんだが……こうして時折でも訪れている以上、無関係な話でもないか。いやな、国が……」
「ええい! ここに逃げこんでおったか、ダレン!」
打ち合わせ室に怒鳴り込んできたのは話題に上がっていたドナルだった。
それも冒険者ギルド内で武器を抜いた護衛を引き連れての登場とは恐れ入る。
ルナも冷静に戦闘態勢に入ったし、僕もバッグにしまっておいた杖を取り出して構えた。
あちらの護衛もそれに気がついてこちらに殺気を飛ばしてきているし、文字通り一触即発と言ったところか。
「お前たちなにを身構えて……む! 小生意気な小僧か!」
「ドナル、冒険者ギルド内で抜き身の武器を持った護衛を引き連れて歩くだなんて言い身分になったものだな」
「当然だ! 儂はこの街の支配者になるのだからな!」
「またその話か。いい加減、その嘘をつくのもやめにしたらどうだ?」
「ふん、嘘ではないわ! 儂は正式にこの街の街長になるのだからな!」
「……なに?」
ドナルがこの街に不在の街長になる?
どういう理屈だ?
「そうだろう、ダレン?」
「はっ! 国が勝手に決めたことだ! この街の人間は誰も認めちゃいねぇ! 事実、冒険者ギルドもお前が街長になる前に手を引かせてもらうからな!」
「な、なにを言うか!? そんなこと次期街長である儂が認めん! 今、決めた! 冒険者ギルドは永年この街に奉仕し続けるのだ!」
「知るかよ。冒険者ギルドは元々国からも独立した組織、なくなったところでたいした問題はないだろ。せいぜい、モンスター退治や街の厄介ごとを引き受ける冒険者が激減するだけでな」
「困る! それは困るぞ!!」
「知ったことかよ。どうしてもって言うなら、あの国のお偉いさんに懇願して引き留めさせな。俺は知ったことじゃないから蹴り飛ばすけどな!」
「おのれ、ダレン!」
「そら、お前たちもさっさと帰りな。警備兵に手足の2、3本を折られてから帰りたいなら話は別だが?」
「くっ……今に見ておれ!」
鼻息も荒くドナルたちは部屋を出ていった。
残されたのは僕とルナ、それにダレンさんの3人だけだ。
うるさいのがいなくなって静かになったが……一体どういうことなんだ?
「ねえ、アーク。さっきのがドナル?」
「ああ、ドナルだったな」
「自称偉い人じゃなかったの?」
「そのはずなんだが……どういうことですか?」
「ああ、その件について説明しなくちゃなんねえか」
ドナルの奴の態度も気になっているけど、ダレンさんの態度も気になるんだよね。
朝から午後まで続いた話し合い、なにを話し合っていたのだろうか?
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