28. 装備の価値と依頼

 ツリーメタルでさえも手に入らないとはちょっと意外だった。

 トネルスタルくらいで作っておけばよかったかな?


「ふむ。アーク君、ルナさんが装備している装備品の価値はおわかりですか?」


「え? いえ、まったくわかりません」


 この街で流通している金属について悩んでいると不意にキルトさんから質問を投げかけられた。

 装備の価値とかまったく考えずに作っていたな。


「でしょうね。私の見立てではその手甲片方だけでも百万ヒーナウ以上の価値があると思われます」


「百万ヒーナウ以上!?」


 さすがにこれには驚いた。

 僕にとって、2日もあれば作れてしまう装備が百万ヒーナウとは。

 普段、街にいない僕でも大金だってわかるからね。


「ええ。希少価値の高いスカーレゴルドをふんだんに使っています。これだけでも百万ヒーナウは必要でしょう」


「そこまでですか?」


「そこまでですよ。その上、マリナードブルーで補強されており、魔法付与も多数付与されているのでしょう。おそらく片手分だけで三百万ヒーナウ以上になるでしょうね」


「うん? アーク、それって高いの?」


「想像以上に高値だったらしいよ。もうちょっと安いと考えてたのに」


「どっちにしても売らないから一緒だけどね!」


「まあ、そうだな」


 ルナはニコニコ笑顔でそう答えてくれる。

 作った甲斐があるというものだ。

 それにしても、僕の作った装備にそこまでの価値があったとは驚いた。

 確かにスカーレゴルドやマリナードブルーの装備を作るには大量の魔力を必要とするけど、逆を言ってしまうとそれだけであって素材さえあればある程度の量産もできるからなぁ。


「ところでアーク君。それは量産可能なんですか?」


 またキルトさんから質問された。

 キルトさん相手だし答えておくか。


「量産……まではできないけれど、素材さえあれば作れます。作れますがあまり作りたくはないですよ?」


「いえ、数を作ってほしい訳ではありません。私とダレンの装備を調えたいだけです」


「キルトさんとダレンさんの……?」


「はい。いつもは酒場にしかいない私ですが、大掃除の時は戦場で指揮を執ります。もちろん、ダレンも指揮を執ります。私たちの装備も強力ではありますが、どちらも年季の入ったトネルスタル製、そろそろガタが来ているんですよ。申し訳ありませんが引き受けてはいただけませんか?」


 うーん、キルトさんとダレンさんの装備か。

 それなら悪用しないだろうし、作ってもいいかも。


「わかりました。ふたりの装備を作ります。どんな装備がいいですか?」


「ありがとうございます。装備は……いま使っているものを身につけてきますので少々お待ちを。ダレンも呼んできますね」


 そう言ってキルトさんは酒場を出ていった。

 しばらくして戻ってきた時には宣言通りダレンさんと一緒で、しかもフル装備をしていたよ。

 ダレンさんは全身鎧に自分の体と同じ大きさのバトルアックス、キルトさんはブレストプレートにショートランスとタワーシールドという出で立ちでの登場だ。

 確かにどちらの鎧も年季が入っており、かなり補修したあとが目立ってきている。


「おう、アーク。俺たちの装備を作ってくれるんだって?」


 鎧姿のダレンさんが問いかけてきた。

 そりゃいきなりだものな。

 悩みもする。


「そういう話になりました。ちなみに、メイン素材はスカーレゴルドになりますが予算は大丈夫ですか?」


「……なんてものを使うつもりなんだよ、お前は。金はあるがそんな簡単に作れるのか?」


「作れますよ。使用する金属の量が多いので素材も大量に必要ですがそれだけです。付与する魔法とかも考えなくちゃいけませんが、それはどうしましょう?」


「ある程度はお前に任せる。ただ、俺もキルトも戦場に出たときはとにかく長く戦い続けなくちゃならねぇ。そこを考慮した魔法付与が望ましいな」


 ふむふむ、長時間戦える魔法付与か。

 じゃあ、あの組み合わせかな。


「わかりました。重量無視にドレイン系の効果を付けておきましょう。あと、鎧にはスタミナ回復速度上昇も」


「ドレイン系の魔法付与なんて国のお抱え連中だってできるかどうか怪しいぞ?」


「錬金術士ですからね。素材をいろいろいじくればどうとでもなります」


「そういうもんか? まあ、お前がそう言うなら納得しておくが」


 本当にそういうものだから納得してもらおう。

 魔法付与なんて後足しするわけでもないなら、いくらでもできてしまうのが僕なんだよ。

 素材の持っている魔力を引き出して完成品に付け加えているだけなんだからさ。


「それで、採寸などはどうしましょうか?」


 キルトさんから質問されたけど、それもぶっちゃけいらないんだよなぁ。

 自動サイズ調整を組み込むから。

 でも、この場で言うのもなんだしごまかしておくか。


「それ以外の替えの鎧とかはありませんか? それにあわせて作ってきます」


「ま、それが妥当で簡単か。ちょっと待ってろ。俺とキルトの予備鎧を持ってくる」


「お願いします。武器は大体の大きさで構いませんよね?」


「ああ。極端にサイズが変わらなければ問題ない。さて、装備をとってくるわ」


 そのあとふたりの予備装備を借りて今日は帰ることになった。

 大掃除は1か月後程度だそうだから、半月後にもう一度この街を訪れてその時に完成した装備品を渡そう。

 しかし、ルナの装備から思いもよらない大仕事が舞い込んだな。

 帰ったら早速取りかからないと。

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