4. 狼少女と同棲1日目の予定

 うう、やっぱり昨日の夜はあんまり眠れなかった。

 どこかの時間で昼寝をしよう。

 ……それにしても、ルナの寝顔は可愛らしかったなぁ。


「なぁにぼんやりルナちゃんの寝顔を見ているんですか。むっつりスケベ」


「わっ!? オパール!?」


 いまも横ですやすやと寝息を立てているルナの寝顔を眺めていたら、後ろからオパールの声が聞こえてきた。

 ばっちり見られてしまったか……。


「ほら、ふたりとも早く起きてください。朝食の時間ですよ」


「わかったよ。ルナ、起きてくれ」


『わふ……。うん……。あ、アーク、オパール、おはよう!』


『おはよう、ルナちゃん。朝食の支度ができていますから、着替えたらすぐにリビングの方まで来てくださいね』


『うん、わかった! アークも一緒に着替えよう!』


『一緒に着替えるって……どうする気だよ?』


『え、一緒に着替えるだけだよ?』


 ルナ、わかって言っているんだろうか。

 一緒に着替えたら着替え中の姿を僕に見られることになるんだけど……。


『あ、一緒に着替えるのが恥ずかしいの?』


『いや、僕はいいんだけど……ルナは平気なのか?』


『うん! アークは旦那様だから気にしない!』


 そう言ってルナはベッドから飛び起き、本当に寝間着を脱ぎ始めた。

 僕は慌てて振り返りそちらを見ないようにしたけど、ルナの小麦色の肌が目に焼き付いて……。


『着替えおーわり! あれ、アークは着替えないの?』


『すぐに着替えるから先にリビングに行って待っていてくれ』


『うん、わかった!』


 ルナは元気よく返事すると、走って寝室を出ていってしまった。

 まるで嵐だな。


「さて、僕も着替えるか……って、ルナ、着替えた服を脱ぎ散らかしたままじゃないか」


 ベッドの反対側にはさっきまでルナが着ていたはずの服が散乱している。

 その中には下着もあるわけで……まったくもって心臓に悪い。


「……あとでオパールにでも片付けてもらおう。その時にルナにも自分で片付けるように指導してもらおう」


 朝の時点でドッと疲れてしまったが、僕は普段着に着替えてリビングに行きルナと朝食を食べた。

 うん、今日もオパールの料理はおいしい。


『なるほど。自分の服も片付けずにやってきましたか。これは減点ですね』


『そんなー』


『ダメですよ、ルナ。着替えはきちんと自分で片付けるようにしないと。あなたの大切な旦那様がそちらに気をとられてお仕事をできなくなってしまいます』


『はーい。それじゃあオパール、このあと片付け方を教えてね?』


『喜んで。それで、下着の誘惑に負けなかった旦那様はどう過ごすのですか?』


 オパールの言葉がザクザク刺さるな。

 僕はなにもしていないのに……。


『僕はとりあえず錬金術で調合かな。街に行く時期も近づいてきたし、今回はヒールポーションを大量に納品することになるだろうから』


『そうですね。春のモンスター大討伐の時期です。アークのヒールポーションをお守りとして持ち歩きたい冒険者や警備兵は多くいるでしょう。何百セットくらい持っていくのですか?』


『五百セットくらいかな? さすがにそれ以上は責任を持てない』


『その程度がいいでしょう。それ以外にも、低級冒険者向けの治癒の軟膏ヒールオイントメントや魔術師向けのマナポーションを持っていくのでしょう? 準備がぎりぎりなのでは?』


『そうなると思う。素材は十分に集まっているはずだし、しばらくは忙しくなりそうだよ』


『ではそのように。ルナちゃんは服を片付け終わったあと、人間語の勉強ですね』


 勉強、と聞いたことでルナの顔がこわばった。

 勉強が苦手なんだろうなぁ。


『がぅ。努力する。でも、午後はご褒美がほしい』


『ご褒美、ですか? なにか甘いものでも食べたいので?』


『ううん。アークが〝れんきんじゅつ?〟って言うのをやっているところを見てみたい!』


『あらあら、困りましたね。どうします、アーク?』


 オパールの顔はちっとも困ってなんかいやしない。

 さっさと錬金術のひとつやふたつ見せてやれといった表情だ。


『わかったよ。それじゃあ、午後は錬金術を見せてやる。それでいいな?』


『うん! アーク、大好き!』


『いや、こんなことで大好きと言われてもな』


『気持ちは言葉にすることが大事ってお母さんもお兄ちゃんの奥さんも言っていた! だから、あたしも気持ちは言葉に出す!』


 すごく直接的なご家族だったようだ。

 ともかく午後の件は了承をし、僕は午前の作業に入る。


「さて、午後は治癒の軟膏ヒールオイントメントの実演をするとして午前中はヒールポーションの大量作成だな」


 僕は錬金術素材をぎっしり詰め込んだコンテナからヒールポーションの素材を取り出し机の上に並べた。

 どれも痛みなどはなく、新鮮で最高品質のものが揃っている。

 さすがは僕、素材の目利きは完璧だ。


「さて、午前中で終わらせられる量は……10セットくらいが限界か? ヒールポーションもなんだかんだいって結構魔力を使うし、作製に時間がかかるからな」


 錬金術にも様々な種類や流派があるらしいが、僕のやり方だと短時間で大量のものを作り出すことはできない。

 その分、品質は上げやすい、らしいけど大量発注が予想されるときは困るんだよね。


「ともかく、調合を始めるか」


 僕は作業部屋であるアトリエに備え付けてあった錬金釜に魔力を通して稼働状態にする、

 すると錬金釜は輝きを放ち、窯の内部が虹色に輝き始めた。

 これが調合可能になった合図だ。


「今回の錬成図だと……この草はここに入れて、次にこの水をこっちに……」


 僕の錬金術では〝錬成図〟と呼ばれる図面が表示される。

 それに各素材を埋めていき調合を行うわけだが、なかなかどうしてこの図面は奥が深い。

 錬成図には素材に対する効果上昇範囲も設定されているため、それを見越して埋めていくことが重要だ。

 しかし、素材ごとに錬成図を埋めていける範囲が異なり、素材同士が重なってしまうと前に埋めていた素材の範囲が消えてしまう。

 範囲が消えてしまうと上昇効果も消えてしまうため、注意が必要なんだ。


「さて、ヒールポーションはいい加減慣れてきたから失敗なんてしないけれど、それでも慎重にっと……」


 僕は錬成図を埋めながら素材を錬成釜へと入れて行く。

 そしてすべての素材を入れ終わったところで、錬金釜の中身が虹色に輝きだした。

 錬成が始まった証だ。


「錬成の過程まで進んだな。あとは少しかき混ぜ、完成するまで待つだけで完了っと」


 錬金釜の中身をときどき攪拌し、待つこと2時間。

 窯の中身が光り輝き、10本のヒールポーションが机の上へと出現した。

 これで、調合完了だ。


「品質は……うん、どれも最上級。そこいらの軽い負傷しか治せないヒールポーションのまがい物とは分けが違うことを思い知らせないとな」


 街の錬金術士が作るヒールポーションの治癒能力は俺の作る治癒の軟膏ヒールオイントメントよりも低いらしい。

 俺のヒールポーションはわずかとはいえ魔力も回復するから、冒険者に重宝されているわけだ。

 街の錬金術士連中、廃業せずにやっていけているのかな?

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