第88話 episode.22 小さな旅行(3)
――Ed, Ed?
小さな女の子の声で呼びかけられたのに気づいて、エドは目を開けた。
室内が明るい。朝になっている。
はっと頭を起こして、隣を見ると、すぐ隣にルカが死んだように寝ている。
ああ、まったく、ルカときたら。
ツインベッドのある部屋だったから、ダニエラとルカが同じベッドで眠って、エドがもう一つのベッドで眠るはずだった。「ダニエラの教育上」そうしよう、とエドが主張し、ルカも最初は同意した。
けれど、バスルームで長い時間をかけてエドの体を愛おしんだら、ルカは、意見をひるがえしてしまった。自分はエドと一緒のベッドで眠る、と彼は言い出したのだ。
(もう俺、何もしないから。一緒に寝るだけだってば。――きみと同じベッドで眠りたいんだよ)
ルカは子供のように甘えてそう言うと、次に低く笑って妥協案を出してきた。
(朝までには、ダニエラのほうのベッドに移るから。なあ、いいだろ? 今だけ、同じベッドに寝ようよ……)
そうささやかれたら、エドもあっさり同意してしまったのだけれど。
なんだよ、やっぱりルカったら、僕の隣で眠ってしまったのか。――そうエドは心の中で独り言を言い、微笑を頬に上らせた。
昨夜は反対のことを主張したくせに、朝のベッドで、隣にルカがいるのを見るのは、やはり嬉しかったのだ。
「どうしたの、ダニエラ? おはよう」
エドは体を起こして、微笑んだ。
――Can’t find my bunny.
あたしのウサちゃんが見つからない。
ダニエラははっきりと英語でそう言った。
すごいな。この子の言葉の吸収力には、ほんとうに驚かされる。
「昨日、寝たときは二つとも、持っていたよね? ベッドの中にもぐりこんでしまっているんじゃない?」
そう言うと、ダニエラはそのエドの言葉を理解したように、彼女が寝ていたベッドの掛け布をめくった。
――Yeah, found it!
あった!
ウサギを首尾よく探し当てたダニエラは、そう言って笑った。
「――。うーん、うるさいよ、二人とも……」
寝ていたルカが目を覚ましたらしい。何かクロアチア語でつぶやいてから、英語に切り替えて文句を言い、彼はまだ眠り足りないようすで、枕に顔をつっぷしてしまった。
三人でこんなふうに、ずっと暮らしていけたらな。
朝はルカの隣で目覚め、ダニエラの世話を焼いてやり、三人で朝食を一緒に食べて――くだらないことで笑って、くだらないことで喧嘩して、でもやっぱり夜は同じベッドで眠るような、そんな毎日だったらどんなにいいだろう?
そんな生活は、虹のかなたにしかないのだろうか。
僕とルカがそう意志すれば、現実のものにできないだろうか。
「今日はディズニーランドにいく日だよ。ね? ダニエラ。寝坊なんかしていられないよね?」
エドはダニエラにそう言った。ルカはまだ眠そうに、上掛けの中にもぐりこもうとしていたから、エドはその黒い髪をくしゃくしゃとかきまわした。
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