第三章『機械人形』

24話。仕事の時間よー

「うにゃー! ししょーだずけでー!」

「あ〜あ〜あ……」

 まるで土砂崩れに追われるようにしてエマが逃げる。

 よく見れば、その土砂崩れのようなものは“暴走した機械の大群”であった


「わー! ぎゃー!!! うわー!!!!!」

 飛んだり屈んだりして、機械達の攻撃を躱す。

 ここは森の中であるため、それと同時に木々の合間を縫って走る。

 それを、美来は空から呆れ顔で眺めていた。




───何故、こんなことになったのか。それは、数時間前に遡る───



♢♦︎♢♦︎♢



が発生している……?」

「あぁ。『侵蝕樹海ジャングルアース』の方でな。今回の異常は過剰流入らしいが、そのせいで機械の動きが激しくなっているみたいだ」

 エマが探検家になって約一ヶ月ほど経った頃。絶賛特訓中だった二人エマと美来の元へ現れた梓睿ずーるいがそう話した。


「これを私がね。ってことはそういう案件?」

「いや、それほど深刻ではない。ただし機械の数が異様に多いため、最低でも二級からとの伝達だった」

「ん〜? じゃあラリーは?」

「勿論、彼にも依頼した。その上でお前に頼んだのは私の判断だ」

「あー? あー……なるほど。助かる。ありがとね」

 彼女は手袋からホログラムを出現させ、仕事の依頼を受ける。

 未来探検家にとって、未来の遺物を回収して売るだけでなく、こういった依頼をこなすのも仕事の一つだ。その際に階級が関わってくる。


 探検家は死んでも生き返る関係上、階級によって行動が制限されることはない。どれだけ危険な場所に行って死んだとしても自己責任と扱われる。

 しかし仕事を依頼する側にとってはそうも行かない。依頼した相手の実力が足らずに依頼完了まで時間がかかっては困るため、依頼する側が仕事を受ける条件として階級を設定するのだ。

……ちなみに、美来ほどになると彼女個人宛に依頼が来ることも多いのだが、彼女は気が向いた時にしか仕事をしないため、“火急の案件は彼女に任せない”というのが依頼者側の共通認識となっている。


「それじゃ、早速かな。

 エマー! これから職場見学に行くよー!」

「え? あ、はぃいっつぁ!?」

 一人でアスレチックを飛び回っていたエマが返事と共に頭をぶつける。


「……大丈夫?」

「えと、はい……そ、それより。職場見学って、具体的に何するんです?」

 額を摩りつつも、平然とした表情で疑問を投げる。

 動じないのは痛みに強くなったからか。ある意味、特訓の成果と言える。

「何って、文字通りだよ。私のを見るの」

「なるほど? つまり、師匠の働きぶりを見れるってことです?」

「そうだよ〜。あ、そうそう。たくさんいるけど、下手に刺激したら大変になるからね。気をつけてね」

「下手に刺激すると大変に……はい! わかりました!」


 美来の忠告に対し、エマは元気に笑顔で返事を返す。

 そうして、いざ『侵蝕樹海ジャングルアース』に到着した───のだが……






「──────師匠どうやってるんですかそれ!?」

 空に立つ美来を前に、エマが驚きの声を上げる。

 もう未来の技術に対しては大分慣れてきたエマだったが、それでも崖から真っ直ぐ歩いて空へ登った美来の姿に信じられないといった表情をする。


「重力操作だよ。ちょうど相殺してるだけ」

「いやいやいや、そんな滅茶苦茶な……。そんな凄技やってる人見たの、師匠が初めてですよ?」

「細かいからね。やってみる? 難しいけど。覚えれるんじゃないかな」

「え〜…………まぁ、やってみたら意外とできるかもしれないし───よし。

 やってみまーす!」

「ん? ───あ、まっ」

 会話に生じた違和感に気付き、美来が止めようとしたのも束の間。




───エマは走り出し、崖から飛び出した。




「───あぜんぜんだめだこれぁぁぁああああああああああ!!!!!」

「あ〜あ……」

 重力の制御ができず、エマは回転しながら落下していく。

 絶賛暴走中の機械達が蠢く森の中へ、ぐちゃぐちゃの軌道で飛び回りながら。


、ってだったんだけど……」

 美来がそう溢す。しかしもう遅い。

 もう少し言葉を端折らずに話していれば回避できたかもしれないが……“後悔先に立たず”とはまさにこのことだ。






「わぶっ───ば、ごッ───ぎゃんっ」

 高所から一気に落下したエマは、滅茶苦茶な軌道で木々にぶつかりながらもなんとか軽い打撲程度の怪我に抑える。着ている服に衝撃吸収の効果がなければとっくにぐちゃぐちゃの死体だったが……だ。


───なお、事故による怪我は軽く済んだものの、彼女は暴走した機械達が蠢く森の中へ落下したわけで……当然、それだけで終わるはずがない。




「いったた……───、げ」

 ぶつけた箇所を摩ろうとして、森に無数の赤い点が光っていることに気づく。


 どう見ても、それは、野生動物の目では、ない。


「「「「「af!ie3208r!3?;oua!9f_:?!aep594:5!igrh3ea?n:ian?」」」」」

「…………えーっと?」

「「「「「fveiyg4;iuqg───0p. D•I•D」」」」」

「あまっずーい!」

 機械達が口を揃えて何かの言葉を発する。

 残念ながらその意味は理解できなかったものの、とりあえず良い意味でないことは確かだろう。

 それを経験から即座に察知して、エマは脱兎の如く駆け出した。


───そして、現在に至る───



♢♦︎♢♦︎♢



「たす、たすけ゛て゛ー! し゛し゛ょ゛ー! し゛ぬー!」

「はぁ……っはは」

 エマのあまりの必死さに、美来は空に立ったまま苦笑している。

 少しばかり(と言っても常人の1/3程度の本当に短い時間だが)考えて、彼女は───“まぁ、こういう非常事態イレギュラーに対応するのも良い経験だろう”───と結論付けた。


「エマー! 予定へんこー! そのまま中心部までー!」

「う゛そ゛で゛し゛ょ゛お゛───んに゛ぎ゛ゃ゛ーーー!!!!!」

「ぅわーお……? あ、余裕そうだね」

 爆発に巻き込まれ吹き飛んでいくエマを眺めつつ、美来は落ち着いた様子で、くるりと逆さまに立つ。

 その技術は曲芸を超えて神業の域に達しているが、彼女はそんなことよりもエマと地脈の状況を観察している。

 エマの様子を観察しているのは、もし彼女が死にそうになった際、即座に助けられるようにするためだ。他にも特訓の成果がどこまで現れているのかを確認するという意図もある。

 ここまでが左脳の思考。そして残る右脳は、地脈を含めた環境全体について考えていた。


(……なにか、違和感がある。地脈の流れが一点へ向かっていっているのは別に不思議なことではないけれど流石にその一点があまりにも小さすぎる上に地形を無視しすぎている。経験上こういうのは大抵が自然現象ではなく人工の建造物や生成物が起こしている現象なのだけれど、この辺にそういう施設は現状見つかっていない。移動してきた生成物の可能性もあるけどそれにしては逆に一点が大きいように感じるしこれだけのエネルギーを必要とするような物体が移動してきたなら何かしらの痕跡が残りそうなものだけどそのようなものは周囲に確認できない。つまりは未知の建造物が存在している可能性の方が高いことになるけどこちらも同じようにそれだけのエネルギーを突然必要としだした意味が分からない。中心まで行けば何かわかるかな)


 わずか3秒程度思考し、ゆるやかに走り出す。

 一歩ごとにとんでもない技術を駆使しながら、彼女も地脈の中心へ向かった。

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