第3話 異母妹が婚約者になろうとしている

「どうだ。最愛の妹がわたしと婚約したんだ。姉として鼻が高いだろう。名誉なことだ。これほどいいことはない」


 ようやく二人が離れた後、殿下はわたしにそう言った。


 イレーナも得意そうな表情をしている。


 わたしはもう我慢ができなかった。


「どこが名誉なことなんでしょうか。わたしは今日、婚約破棄をされました。それと同じ日によりによってわが妹を婚約者にするとは」


「ラフォンラーヌ公爵家としては大変名誉なことではないかと思うよ。そうだろう」


「はい。大変名誉なことです。しかもこんなに素敵な殿下の婚約者になれるんですから」


 イレーナが言うと、


「これほど名誉なことはありません」


 と継母も言う。


 この二人は何を言っているんだろう。


 いくら義理だと言っても母は母、母は違っても妹は妹のはず。


 わたしの心は傷ついているというのに、いたわりの言葉一つも言えないのだろうか。


「殿下、わが妹を婚約者にするというのは、冗談で言っているのでは」


「どうして?」


「わたしとの婚約破棄も急な話でしたが、わが妹との婚約も急な話でしたから」


「冗談でこういう話ができると思っているのか!」


 殿下は声を強める。


「わたしには、わたしを捨てて、妹を選ぶという殿下の気持ちがどうしても理解できません」


「じゃあ、わたしの気持ちを教えてやろう」


 そう言うと、殿下は一回言葉を切った。


 そして……。


「わたしとイレーナが初めて出会ったのは、前回のパーティーだった。きみも参加しているだろう」


「わたしも参加していました」


「その時のダンスの相手の一人がイレーナだった。わたしは、その時、『わたしと婚約すべきはこの人』と思ったのだ」


「そんなことって……」


「それからは、もうイレーナに夢中だ。イレーナもここに来る度にわたしの思う通りに動いてくれる。きみと違ってゴージャスだし、おしゃべりをしていても楽しい」


「わたしが知らない間に、ここに招き入れていたんですか?」


「そうだ。最近はもう毎日に近いぐらい会うようになっている。会えない日は寂しくてしょうがない」


「そんなに会っている……」


「そうだ」


「わたしなんか、週一回ぐらいしかお会いできなかったのに……」


「週一回でも、好きでもない人と会うことがどれだけつらいことか、きみにはわからないだろう」


「そこまで言わなくても。わたしは殿下と会うのを楽しみにしていましたのに……」


「もうこれで苦痛から解放される」


「殿下、わたし、改めて殿下の好みの女性になるよう一生懸命努力します。このまま婚約破棄され、妹の後塵を拝することなんてできません」


「いい加減にしてほしい! わたしはもう決断したんだ! わたしの婚約者はイレーナだ」


 殿下はそう強く言う。


 すると、


「姉上、もう殿下がお決めになったことです。素直に従うべきです」


 とイレーナが言う。


 そして、


「セリフィーヌ、わたしは母親として情けなく思います。殿下がお決めになったことに従わないとは。殿下の決定に従いなさい」


 と継母も言う。


 この人達、わたしを何だと思っているの……。

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