第21話 逃亡の姫と越後逗留 ~桜姫視点~


 目を開けると、そこは知らない部屋だった。

 ばりばりと肩口をきながら起き上った俺は、改めて辺りを見回す。

 

 何が起こっていたんだっけ? 

 ああそうだ。大阪城で神力を発現して、雪村に連れられて逃げ出したんだった。


「このままここに居座った場合、大阪城から出られる保証はありません」と美成におどされたから。


 越後に向かっていたんだから、ここは春日山城か?

 なにぶんゲームと展開が違うから どうなっているのか解らない。


 今のところゲームの方は、兼継かねつぐ美成みつなり信倖のぶゆきまでは攻略したけど、どのルートでもこんな展開になってない。 

 というか、大阪での『花見の宴』は共通ルートだから、展開が一緒だった。


 残るは雪村と家靖いえやす正宗まさむね清雅きよまさだが、正宗と清雅はまだ会ってすらいないから、こいつらは関係ないだろう。

 家靖だって、面通めんとおしが終わったばかりだから違うだろ?


 という事は……これは『雪村ルート』なのか?

 メインヒーローだから展開が違う、って事は十分あり得る。


 雪村のシナリオメインヒーローが一番っているだろうから最後にやろう、と残していたが、こんな事なら先にやっとくべきだった。

 よし、今やっている正宗ルートは止めて、雪村ルートに入りなおそう。

 と思っても、起きたらここでの出来事は全部忘れちまうから、どうにもならないんだけどな。


 ただ、こっちで受けたダメージは、地味に現実の身体にも影響していて、昨日は起きたら身体がばりっばりにっていた。


 大阪から逃げる時は炎虎に乗せられたけど、俺は着物だから虎をまたぐわけにいかなくて、雪村に抱きかかえられていた。

 そうなると、雪村の小袖しかつかむとこが無かったんだよな。


 そんな不安定な体勢で虎に乗るだけでも大変なのに、怨霊にも出くわしたから、振り落とされないようにするのに必死だった。


 あいつ、討伐になると人が変わるぞ。


 雪村が「春日山城かすがやまじょうが見えた」と言ったのまでは覚えているけど、それ以降は記憶がない。



 ***************                *************** 


「姫さま、もうお目覚めになられましたか?」


 部屋の外から女の声が聞こえて、返事も待たずにふすまが開かれた。

 愛想のいい中年の侍女が、小袖を持って入ってくる。


 さあ、越後で初めての選択肢だ。


 ① 「おはようございます」と元気にあいさつ

 ② 人見知りの振りをして、まずは様子見ようすみする


 俺はどのキャラでいくべきか一瞬迷い、結局『人見知り』を選択する事にした。


「……おはようございます……あの、雪村は……?」


 あの過保護なチワワ好きが、俺を放置するなんて信じられない。

 ここに着くまで、すげえ数の怨霊をせてきたし、どこか怪我でもしていたのかと心配になるじゃないか。


 そんな俺に、あらあら といった顔をして、中年侍女は笑いをみ殺した。


「本当に人見知りでいらっしゃるのねぇ。雪村ならもう来ていますよ。さあさあ、御髪おぐしを整えましょうね。いくら気がいても、殿方とのがたと会うのにそのままはいけませんわ」


 その言葉が終わらないうちに侍女がふたり入ってきて、俺の身支度みじたくを手伝い始める。


 あれ?


 武隈邸での扱いと違いすぎて、俺は軽く戸惑った。

 あっちでは克頼にウザがられていたから、侍女も主人の意をんで、最低限の事しかしてくれなかったからな。


 その流れで、俺はやっと放置してきたオニイサマの事を思い出した。

 嵐をしずめて以降、あいつがどこで何をしていたのか、全然覚えていない。


 俺が大阪から逃げ出した後、克頼はどうしたんだろう。






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