第五話 密室の開けかた
六月十八日水曜日①
「木皿儀――」
萩尾から声をかけられて、ぼくは帰り支度の手をとめた。
美術室には、ぼくと萩尾しかいない。
窓や扉は開けっぱなしになっていて、ときおり吹き抜ける微風がカーテンを翻す。差しこむ夕日が、教室内の輪郭をうかびあがらせる。
グラウンドを駆けるサッカー部員たちの声が遠く聞こえる。
いつかの教室でのことを思い出す。魔法はあるか。
萩尾は押し殺した声でいう。
「芹澤さんは、どうなの」
「どうって、べつに変ったところはないよ」
「やる気あるの」
「変わったところはないんだから、いいことじゃん」
もどかしさが言葉にならない様子の萩尾。丸い頬がさらに膨れている。
なぜだろう、わずかながら罪悪感がある。けれど昨日、萩尾をとめることに決めたのだ。はぐらかすのをやめてぼくは答える。
「とりあえず、こうして部活にきて観察はしてるよ。人なんて殺したっていうなら、明らかに日常生活に影響が出るだろう」
「そうかもだけど」
「それにぼくは、芹澤さんとはクラスでも顔をあわせてるんだよ」
じっさいは教室ですれ違う程度だけれど。
「ぼくの見た限り、べつになにもない。ここでも同じで、いつもの明るい感じだよ。まあ、前よりはへこんでるようには見えるけれど、それだって上野が好きだったからなんだ。そんな子が犯人だなんて思えない」
「じゃあ、誰がやったってのよ」
「やっぱり、自殺なんじゃないの。殺人だっていうのなら、萩尾も例の血の密室を解く方法は考えたの?」
萩尾はさらに声量を落とした。
「まだだけど」
「じゃあ、考えてからだね」
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