第2話「中等部への進学」

そして十五歳になった私たちは中等部に進学した。


中等部に上がったら、コニーとの仲は元通りになると思っていた……でもそうはならなかった。




私が彼から離れた二つ目の理由、グリゼルダ・ベッヒャー伯爵令嬢の登場。





中等部に上がったコニーは背がスラリと伸び、母親譲りの愛らしい顔立ちもあって、女生徒に大人気となった。


両親が言っていた通り、ロジャーは初等部での硬派な発言など忘れたように、女の子の後を追いかけ回すようになった。


それに伴い、ロジャーの報復を恐れて女の子と話せなかった男子たちも女子を食事やデートに誘うようになった。


私もコニーと前みたいに普通に話せるようになると思っていたんだけど……。


素敵なイケメンに成長したコニーを、周りは放っておかなかった。


コニーに惚れている生徒代表はグリゼルダ・ベッヒャー伯爵令嬢。


コニーは下位貴族や平民の女子に人気だった。


けどコニーと話していると必ずグリゼルダが割り込んでくる。


伯爵家に睨まれたくなくて、コニーの周りからは徐々に女生徒が離れていった。


グリゼルダは金色の髪を縦巻きロールにした翡翠色の瞳の美人。


美人に迫られるのは悪い気がしないのか、コニーもグリゼルダを遠ざけようとはしなかった。


私とコニーの距離は中等部になっても初等部の頃と変わらず……いや、前より離れてしまった気がする。


それでも誕生日などのお祝いごとには、ナヨタ子爵家に招待されていた。


グリゼルダはナヨタ家でのイベントの度に、下位貴族の女子を招きお茶会を開いた。


しかも毎回開催前日に招待状が届く。


グリゼルダに「参加しなければ社交界でのご両親の立場が悪くなるわよ」と言われては、断る訳にもいかない。


そんな訳で私はナヨタ子爵家からの招待を、ドタキャンすることが増えた。


ベッヒャー伯爵家のお茶会に行っても主催者のグリゼルダはおらず、招待客が庭やテラスでお茶を飲んで帰るだけ。


しかもある程度時間が経過しないと家から出して貰えない。


ベッヒャー伯爵家のお茶に招待されたのはコニーに惚れている女の子はがりで、「コニーに近づくな」というグリゼルダからの警告なのだと理解した。


ベッヒャー伯爵家のお茶会に招待される女生徒は、回を重ねるごとに減っていき、ついには私だけになった。


暖房のついてない応接室で何時間も待たされる、その間お茶やお菓子などの提供もない……そんなことも珍しくなかった。


グリゼルダは伯爵家の権力を使い、コニーの誕生日パーティーなどのナヨタ子爵家のイベントには毎回参加していた。


ナヨタ子爵家でのパーティーやお茶会をドタキャンしてばかりの私の信用は下がり、逆にグリゼルダの株が急上昇。


ナヨタ子爵家でのパーティーに参加していた両親の話によると、ナヨタ子爵夫妻は伯爵令嬢のグリゼルダとコニーをくっつけようとしていたらしい。


彼らは幼馴染の冴えない子爵令嬢より、美人でお金もちな伯爵令嬢と結婚させた方が、自分たちの利益になると思ったのだろう。


中等部二学年の年度末パーティーが迫ったある日、グリゼルダがリボンやドレスを送ってきた。


「お茶会に招いておきながらおもてなしできなかったお詫びです。受け取ってください。ぜひパーティーに身に着けてきてくださいな」と書かれたカードを添えて。


グリゼルダから贈られてきたのはどどめ色のリボンとドレスで、新手の嫌がらせかと思った。


しかもドレスは胸元部分が大きく開き、足に大きなスリットが入ったデザインで品がない。


長身でメリハリのあるナイスバディーのグリゼルダには似合うのだろうが、私のようなスレンダーな体型には似合わない。


それでも上位貴族からのプレゼントを無下にはできず、パーティー当日そのリボンとドレスを身につけることになった。


ご丁寧にもグリゼルダは我が家に使用人を派遣し、彼女たちに私のドレスの着付けをさせた。


ベッヒャー伯爵家の使用人によって、私は髪を縦巻きロールにされ、厚化粧を施され、髪にどどめ色のリボンを結ばれ、同じ色のドレスを着せられた。


彼女たちに連行されるように伯爵家の馬車に載せられ、パーティー会場に運ばれた。


彼女たちは会場に入るまで私の側を離れなかった。彼女たちは何が何でもこの格好でパーティーに参加させたいらしい。


会場に入ると室内がどよめいた。


皆が私を見て小声で話している。


「何あのドレス? 似合ってると思ってるの?」「猿真似かよ」「まるで……の不気味なコピーだな」


生徒たちがひそひそと囁く。


私は居心地が悪くて、会場の隅に移動しようとした。


そのときコニーにエスコートされたグリゼルダが私の目の前に現れた。


グリゼルダの姿を見て、なぜ人々がひそひそと噂しているのかわかった。


グリゼルダは、私と全く同じデザインのドレスを身に着けていたのだ。


違うのは色だけ。こちらはどどめ色だが、あちらは真紅。


グリゼルダの派手な顔立ちには縦巻きロールも真っ赤なリボンも似合っていて、メリハリのある彼女の体には胸元の開いたドレスも似合っていた。


私は地味な顔に似合わない厚化粧、茶色の髪を縦ロールにして、体型に合わないどどめ色のドレスを纏っている。


「まるでグリゼルダの劣化コピーだな」


コニーが蔑むような目で私を見て、冷たく言い放った。

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