第52話 精霊王フェレーヌドティナ
「目が覚めたようじゃな」
上体を起こしたロゼラインに鈴の音のように繊細でしかしよく響く声の主が語りかけた。
ロゼラインをのぞきこむその『女性』こそサタージュたちを束ね、この世界を管理する精霊王フェレーヌドティナだった。
下界でのもめごと(シュウィツアーでの公女ロゼライン毒殺事件)に片が付いた後、当事者であるロゼラインや相棒として働いていた猫のクロはサタージュによって、シュウィツアー南端のフェノーレス山地にある精霊王の御所へと連れていかれた。
元王太子と取り巻きの悪だくみを聞いた後すぐに導かれた白亜の建物も御所の一部だったことは後で知ったが、さらにその奥に精霊王フェレーヌドティナが鎮座する室がある。
フェレーヌとは精霊の女王を表す称号のようなモノ、そして個別の名として「ティナ」があり、つまり「精霊女王のティナ」という意味である。
フェレーヌドティナは着座から優雅な笑みを浮かべてロゼラインとクロを見やり、彼女たちを眠りにいざなった。
触り心地の良い毛皮、フェレーヌドティナが上に羽織っていた御衣だが、それに包まれて一人と一匹は眠りに落ちた。そして次の目が覚めた時、ロゼラインは自分がフェレーヌドティナが身に着けている十二単のような衣の裾の上に寝転んでいたのに気づいた。
「どうじゃ、この衣装は? そなたの頭の中をちょっと覗かせてもらってあつらえたのじゃがの?」
精霊王ティナは無邪気に笑って言った。
「あ…、ああ、とても素敵です……」
ロゼラインは躊躇しながら答えた。
自分の頭の中のどこをどう覗けば十二単もどきの衣装が出て来るのだ?
たしかに美華がいた国の民族衣装の一つではあるが……。
フェレーヌドティナはサタージュと同じ白銀の長い髪を持っていて、その髪は光が当たると虹色に輝いた。孔雀碧の瞳を縁取るまつげも同じ色をしている。そして、サタージュもそうだったが肌の質感が人間と違ってつるりとお人形のようで、人ならざる者の美しさを示している。
「フェリ様、よろしいですか?」
サタージュがもう一人、同じ髪色をした別の精霊を連れて入ってきた。
フェレーヌドティナでは長いので縮めて「フェリ様」と精霊たちは呼んでいるらしい。
サタージュの傍の者は、サタージュやフェリ様と同じ髪色で、サタージュよりは線が細く女性的な感じがした。
その精霊はロゼラインに近づくと、
「これは、これは! 『薄命の美姫』、『救国の乙女』、噂にたがわぬ美しさだ!」
と、感動の言葉を述べた。
何言ってるんでしょう、この人は?
ロゼラインは目をしばたたかせた。
「少し説明が必要なようだな」
きょとんとしたロゼラインの顔を見て、サタージュは言った。
そしてロゼラインが去った後の下界の話をした。
王位継承権は予想通り第二王子のゼフィーロに移った。
それは滞りなく行われたのだが、国王や貴族の一部がロゼラインが去り際に言った言葉にひどくおびえていた。
そういえば国王やロゼラインを貶めていた家門の当主に『呪い』とかいう言葉を口にしておどしてやったような……。
あれ、真に受けてるの?
ちょっとばかし『ざまぁ』な気持ちをロゼラインは感じる。
その怯えからか、何とかロゼラインの魂をなだめる方法として、国中にロゼラインの姿を模した『救国の乙女像』を建てることにしたのだった。
「まあ、救国の乙女っていうのもあながち間違えじゃないからね……、死してなおバカ王太子の手から国を取り戻すのに力を尽くしたわけだし……」
サタージュは言いにくそうにしながらも締めくくった。
なんか、それ、心底どうでもいい!
ロゼラインは思った。
死んでから持ち上げられてもうれしくもなんともないんだよ!
勢いあまっておどした自分も自分だけどさ、銅像建てるったってヤツらの不安と良心の呵責を軽減させるためのものだろうが!
「それで、その銅像の主を冷やかしに来たとか?」
ロゼラインは冷ややかに聞いた。
「いやいや、そうじゃない! 今日来たのは君の身の振り方を考えるためだよ。彼はネイレス。一緒に考えてもらうために連れてきたんだ」
サタージュは隣にいた同じ髪色の精霊を紹介した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます