第42話 王宮裁判 ~順を追って説明いたしましょう~
「それでは順を追って説明いたしましょう」
ホーファー伯爵は隣に座っていたゼフィーロ王子に目で合図をし王子はそれにうなずいた。
「まず、ミカ・キタヤマの体内から検出された毒はロゼライン・ノルドベルク嬢の命を奪ったものと同じ毒でした。この毒の原材料は極めて希少でクーデン男爵領にしか生えていない植物から抽出されるものでした」
伯爵は説明を始めた。
「原材料がうちの領内から出たからなんだというの! そもそもあの薬は私が着付け薬として持っているのを間違えて使用人と一緒に飲むレモネードに入れただけよ」
「なるほど、そういう言い訳も立ちますな、しかし、その数日前にあなたがその使用人に暴力を振るっているところを多くの人間が目撃しており、彼女を殺害する動機も十分にあったわけです」
「それはあなたの見方よね。よしんば私がその下女を殺害しようとしたとして、どうしてそれが反逆罪に結び付くのよ。ロゼラインが死んだとき私はパーティ会場にいたことを多くの人に目撃されているのよ」
「ああ、そうでした。確かにこの公判は使用人であるミカ・キタヤマの殺人未遂ではなく、準王族であったロゼライン・ノルドベルク嬢殺害に基づく反逆罪でございます。ですからそれについて順を追って説明いたします」
証人として立たされているミカ・キタヤマとしては複雑な気分だった。
ミカの殺人未遂は故意であろうと過失であろうと、被疑者も検察側も、スルーしてもいいもののように扱っている。
俎上に挙げられているロゼラインもまた自分自身ではあるのだが、彼らにとっての使用人の命の価値の低さにはやりきれなさも感じていた。
「ロゼライン・ノルドベルク嬢の件においてわたくしたちは、あなたが直接手を下したなどとは一言も言っていない。ミカ・キタヤマに使った毒とロゼライン・ノルドベルクに使った毒が全く同じと判明した後、魔法省は追跡魔法で令嬢の命を奪ったとみられる毒の瓶に触ったことのある人物を解明しました、読み上げます」
一呼吸おいてホーファー伯爵は名前を上げていった。
古い順から名が読み上げられた。
最初にかかわった何名かは家族なのだろうか、姓が皆同じで王都の貴族ではなかった。
そしてその次にサルビア、王太子、エルフリード、ロベリアの名があげられ、その後は捜査のために瓶に手を触れた魔法省の人間の名があげられた。
「おわかりですか? 王太子殿下と現在被告である三名が出てきたのです。追跡魔法に関しては大魔法使いの高弟レーツエル殿に依頼しましたので間違いはないでしょう。そしてサルビア嬢の前に上がった名の主たちはクーデン男爵領に実在しておりましたが、数か月前に謎の失火で家族全員死亡しておりました。この毒は現在製造が禁止されており、過去に作られた毒に関しては全て王宮に報告されており、男爵領で確認しましたが数は減っておりませんでした。つまりつい最近何者かがその家族にこの毒の製造を依頼し、完成と同時に口封じのため殺されたとみるのが妥当でしょう」
「口封じなんてあんたの推測でしょう。そもそも、それを私が持っていたとしてもその後王太子殿下に渡したのよ。王太子殿下が許してくださったものをどうして今更ぐちぐち言われなきゃならないのよ!」
サルビアの声を聞いて王太子は苦虫をかみつぶしたような表情をした。
あの女、検察側に噛みつきながら言葉の端々で毒を持っていたことを白状している。
ここまで頭が悪いとは!
しかも王太子、王太子と……。
アイリス嬢への狼藉でウスタライフェン公爵に訴えられたヨハネスは、最後まで王太子の名は出さず、こちらに累が及ばないよう配慮を見せたというのに……。
「そうですね、しかし本来なら王宮に毒を持ちこんだ時点で反逆罪が適応されます。そのような重大な過ちを王太子殿下がご自身の判断で握りつぶされたことの是非は、臣下の身として僭越ながらいずれ問われなければならぬことかと存じます。いいですか、サルビア嬢、その毒をかつてあなたが所有していて無許可でそれを王宮に持ち込んだ時点で有罪なのです」
サルビアはぐうの音も出ず青ざめた。
彼女はすがるように王太子の方に目線をやったが、王太子は目をそらした。
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