第27話 ロベリア・ノルドベルクの鬱憤
王太子の婚約者だった
まず社交界での存在感が大きく損なわれた。
若いころから美貌を誇り、それは子供たちが十代後半に成長し自身も三十代後半になっても、さほど衰えは見せなかった。賛美の言葉は彼女を取り巻く伴奏のようなものであり、特に娘が王太子の婚約者に選ばれてからは、王都の社交界は彼女のためにあると言っていいほどだった。
少なくともロベリア自身はそう感じていた。
しかし、ロゼラインが十代も半ばに入ると、賛辞がロベリア自身から娘のロゼラインに移っていったのが彼女を軽くイラつかせた。
「ほめ言葉をまともに受け取るもんじゃないわよ。あんたのような不器量ものが王太子の婚約者に選ばれたのは、ノルドベルク家の力なんだから」
ほめ言葉を述べる人間に対して、彼女がやせぎすであること、愛嬌がないことなどをあげつらってよく貶めていた。
とはいえ、生育途中にある少女と豊満な大人の女性の体を比べるのは無理があるし、ロゼラインがあまり感情を表に出さないのは王太子妃としての教育のたまものなだけだったのだが……。
確かにロベリアには見た人に華やかな印象を与えるところがある。
でも、それは美しさのタイプが違うだけだ。
ロゼラインのノルドベルク家特有のプラチナブロンドの髪は、降り積もった山の雪が夕日に映えて輝くように美しい、と、形容される。さらに空色の瞳としなやかな体つき、ともすれば下品に落ちがちなロベリアの派手さとは正反対の清浄な雰囲気がロゼラインにはあった。
しかし、ロベリアに近しい声の大きな面々の言葉の方がロゼラインの耳にもよく入ってきたため、ロゼライン自身ですらも、その美しさに自覚するのは皮肉にも自分が死んだ後だった。
そもそもパーティの紹介状自体激減している。
喪に服しているから周囲も気を使っているのだろうと夫は言うが、そうやって社交界から遠ざかっている間に、ちゃっかり自分を出し抜いて社交界の中心に立とうともくろむ夫人は少なからずいる。
王族の姻戚という優位性は失われ、年齢的にも「過去の人」になりつつある現状をどう挽回すればいいのか、妙案は思い浮かばず彼女は焦燥に駆られていた。
そんな状況の中、さらに彼女をいらだたせることとして、王宮の出入りの際の持ち物の確認が今まで以上に厳しくなったことがあげられる。
「私を誰だと思っているの! 王太子の婚約者の母親なのよ! 未来の王妃の母親の持ち物を疑うつもり!」
今までだったら確認に携わる警務隊士に威圧的にそう言えば、調べられることを拒絶しても問題はなかった。
しかし、ロゼラインの死後しばらくして『立場によって特別に検査を省くことなかれ』という王命が出され、高位貴族によるこのような恫喝が効果をなさないようになった。
そして、ロベリアの持ち物から毒が発見され騒動となる。
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