第23話 掲示板への書き込み

「楓、お前今日の学校の掲示板見たか!」


 登校そうそう、成田が俺の元に駆け寄ってきた。

 

「掲示板……そんなの普段から見てない」

「ちょっ、今見ろって」


 成田が携帯の画面をつける。


「えっと、5組の錦小路 楓の悪行について話します……? ってなんだこれ」

「いや、俺も詳しくは分かんないんだけどさ、ほらここ」


 指でさされた部分を読む。


「錦小路 楓は、同じクラスの才田 大輔さいだ だいすけをひそかにイジめている。誰の目にもつかないところで暴力をふるったり、カツアゲをしたりしている。彼の悪行はそれだけではない。中等部からひどいいじめを繰り返しており、そしてその権力をもってして全てもみ消している。高等部からの生徒は十分に注意すべし……」


 これは……

 

「才田の自作自演かな」

「やっぱそうだよな」


 成田も頷く。

 

「でも普通の生徒が見たら、才田の仕業だって思わないだろうな。考えられるのは……中学時代の俺たちを知ってる、というか、俺たちに何かされたやつか」

「まぁ、だとしたら、悪いのは俺たちだもんな。責められて当然というか」


 周囲を見回すと、噂話をしていた生徒が全員俺から目を逸らした。学校中にこの噂が広まるのは確定だろう。

 ゲーム内でも、ヒロインの悪い噂が掲示板に書かれ、問題になる事件があった。運の悪いことに、この学校では掲示板を使うのは主流みたいだ。


「どうする? 匿名だから、才田が書いたって証拠は見つからないぜ」

「掲示板の管理人に聞くとしても、そこまでするかって話だしな。誰かも知らないし」

「うーん、ぼちぼち証拠集めするしかないか」

「そうだよなぁ。完全に敵認定されてるみたいだし」

「なんでお前そんな認定されてんだよ。なんかしたのか?」

「いや。才田には何にも。中学の友達がいたとかか? そいつになんかやっちゃったかなー」

「可能性はありそうだけど」


 それしか考えられないよな。俺の過去も知ってそうだし。

 まぁ……あと1つ、可能性があるとすれば、それは……


「転生者、とか」

「なに?」

「いや、何にもない」


 まさか、な。彼の動向からしてありえなさそうではある。

 むしろもっと、このゲームの話を知らないからこその行動な気が……? いやぁ、もう、わけわからん。なんなんだよマジで。


「もうさすがに放置はないだろ?」

「そうだな。たぶんこれ以上放っておいたら、同じようなこと何回もしてくるつもりだろうし」

「だな。証拠、集めるとしたら、安パイなのはカメラを設置するとか」

「やっぱそうだよな。教室に隠して……でもそしたら時間がかかる」

「その問題はあるよな」

「そうなんだよなー。他の方法だと、俺が直接才田に聞いてみるとか」

「あぁ~」


 成田が納得したような顔をする。


「それはかなりありかもな」

「録音しながら話してみて、何かボロがでたら、それを証拠として提出する。言いがかりをつけられないように、カメラも設置しておく。そしたら脅して録った音声だとも思われないだろうし」


 我ながら名案だ。

 次に才田が何をしてくるのかは分からないわけだし。これなら直接聞いた方が早い気もする。

 不覚にも主人公に接することになるわけだけど、もうこれ以上は見過ごせない。


「ひとまずの対処としてはそれでいいかもな。ただ1人で会うのは危ないだろ。ここは佐々木も誘おうぜ。俺たちがバックで見てるからさ」

「それなら安心……っていうか、俊一、ちょっと楽しみ始めてないか?」

「い、いや? 別にそんなことは」

「じゃあなぜ目を逸らすんだ成田俊一よ」

「まぁまぁまぁ、ひとまずその作戦でいってみようぜ」


 成田はにっこりと笑って見せた。完全に楽しんでるな。

 

「計画は早めに立てよう。これでお前も悪役じゃなくなるわけだしさ」


 悪役じゃなくなる、か……


「そうだな」


 だったらいい。

 




 



「なんか昨日、掲示板にえぐい書き込みされてなかった?」


 この物語の第1ヒロイン、花野井 綾芽は、友達の一言に振り向いた。

 そうか、それで今日、教室がこんなに騒がしかったんだ。


「えぐい書き込み……?」

「そうそう。5組の錦小路ってやつが、いじめをしてるとかいうやつ。恨みみたいなのがいつもの比じゃなかったよ。見てるこっちが怖かったもん」

「それは怖いですね」


 綾芽は眉を寄せる。純粋培養で育ち、そして優しい綾芽である。こういう話は全て苦手だった。


「そうだよね。あっ、錦小路といいえばさ、ほら、入学式に喧嘩してきたっていう」

「入学式で喧嘩? かなり物騒な話ですが」

「そうなのよ。入学式の日、学校休んだらしくて。で、次の日、頬っぺた腫らしてきたから、確定じゃないかって。ま、だから彼自身も恨み買うようなこといっぱいやってんだろうね。ていうかこの噂、めちゃくちゃ有名なのに、綾芽、知らなかったの?」

「初耳です」


 入学式近辺は、ストーカーの話でそんなこと気にもかけていられなかった。それに、綾芽は噂話全体が苦手なのだ。

 ……ん? ストーカー? 頬を腫らす?


「本田さん、その方の名前、聞いてもいいですか?」

「その方……って、錦小路のこと? 錦小路 楓だよ。5組の」

「なるほど。錦小路さんですね、ありがとうございます」

「なんで錦小路のことが気になったのさ」

「以前、助けていただいた方なんじゃないかと思って」

「さすがに違うでしょ。ほんと入学してきてから悪い噂しかたってないのに」

「それでも確認したいんです。だって、名前すら教えてもらえなかったので。どうしてもお礼がしたいんです」


 そう、あの日。お礼をしようとしたのに断られた。

 あれから彼のことは何度も探したが、名前を知る方法なんかなくて……


「そっか……じゃあ、ファイト! そのお礼したい人っていうのが、早く見つかるといいね」

「はいっ!」


 綾芽は力強く頷いた。ここにきて、初めて掴んだチャンスだ。逃すわけにはいかない。


 (絶対に捕まえて、お礼を言いたい)


 綾芽は強く、心に誓った。

 

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