第12話 俺、まだモブだよな……?

 俺はモブである。

 誰がなんと言おうとモブである。

 そもそも前世は平々凡々、写真を見せたら『優しそうだね』『いい人そうだね』というよくある文言を唱えられるような男だった。

 つまり俺はモブでいることに慣れている――はずなんだけど。


「ねっ、錦小路くん。これめっちゃ美味しい!」

「たしかに美味いな……」


 なぜか今、美少女と2人きりで食べ歩きを楽しんでいる。

 いや、待ってほんとに何でだっけ。こんなんモブじゃねぇじゃん。そもそもの始まりは……





 


「雨、止んできたね」

「ほんとだな。そろそろ先生のとこいくか」

「そうだね。よし、行こう!」


 神奈が座っていたバス停のベンチから立ち上がる。

 さっきまでのなんだか真剣な雰囲気は欠片もない。やっぱり自分の本当の部分は隠して生きてるんだろうな。あまりにも”佐々木 神奈”というキャラクター像をつくるのが上手すぎる。


 2人でのんびり話しながら先生の待機している場所へと向かう。


「そういえばさ、昔よく見てた夢、最近見なくなったんだよね~」

「どんな夢?」

「ちょっと引かれるかもしれないけど……」

「引かないよ」

「錦小路くんならそう言ってくれると思ってた。えっとね、じゃあ、言ってみるね」

 

 神奈は少し顔を隠し気味にしながら呟いた。

 俺の上着を着ているから、いわゆる萌え袖状態。うん。めちゃくちゃ可愛い。ゲーム内ではあれやこれやをしたけど、こういう自然体なのもいいな。着てるからこそのエロさが……おっとこの話はここまでにしておこう。


「その、高校に入るまではね、同じような夢を何回も見てたの。わたしと誰かが付き合ってる夢」

「なるほど」


 返事をしながらも俺は焦っていた。

 ちょっっっっっと待てよ?

 たしかそんな場面がゲームにもあった気がする。

 あぁ。そうだ……


「その男の子、すごく優しくて、すごく安心して、すごくわたしのことを思ってくれてるのが分かるんだけど、起きるといつも誰なのか忘れているの。だけど夢を見てることと内容は分かるんだよね」


 そうだ。こんな場面、元々のゲームにあった。


「高校の入学式から見なくなっちゃったんだけど」

「そうなんだ……」


 主人公と他のヒロインも、神奈と同じ内容の夢を見ていたのだ。幼少期の頃から何度も何度も。

 そして彼らは心が通じあったことによって、夢に出てきた相手がお互いであることを認識する。

 そのはずなんだけど、おかしいな。ゲーム本編では入学式の後から夢を見る頻度が高くなるなのに。


「なんかほんとごめんね。錦小路くんの前だったらなんかこう、口が緩むっていうか……ほんとになんでなんだろうね。やっぱ錦小路くんが優しいからかな」

「うーん。そうだったら嬉しいけどなぁ」


 ふと頭に嫌な予感がよぎる。

 まさか、ほんとにまさかさ、夢を見なくなった理由、俺が転生してきたからとかじゃないよな。

 さっきからどう考えてもモブとは思えないような行動をしてしまっているし、今後が本当に心配だ。うーん、自意識過剰か? まだ俺、モブの範疇か? そうだよな? そう思いたい。


「先生たちいた。着いたみたい」

 

 モヤモヤ考えていると、神奈が呟いた。どうやら到着したようだ。


「これで班に合流できるな」

「そうだね。迷惑かけちゃったけど、どうにかなりそうでよかったー」

「だな。ほんと一時はどうなることかと思った」


 最初はマジで迷子になったの1人だけだと思ってたからな。ほんと、どうにかなりそうでよかったぜ。

 担任に事情を説明し、山田と木戸に電話をしてもらう。しばらくして繋がったが、だいぶ離れたところにいるとのことだった。しかも、遠足が終わるまで時間はあまりない。


「どうする?」


 担任に尋ねられ、神奈と顔を見合わせる。


「えっと、じゃあ、申し訳ないけどわたしたち2人で回るって伝えてもらってもいいですか?」

「そうなの? 伝えておくわね」


 担任に頭を下げ、俺たちは再び人混みの中に繰り出した。

 それで、1番初めに目についた美味しそうなソフトクリーム屋さんで、イチゴソフトを買ったのだ。そうだ。そういう流れがあったんだ。


「美味しいね」

「美味しいな」


 笑顔の神奈に必死で笑顔を返す。

 これ俺、なんかマジでやばくねぇ?

 

 








 


「神奈、見つけられて良かった……」


 そんな2人を物陰から見ている男が1人。


「隣にいるアイツはなんだ? たしか、アイツも夢に出てきたような気が……ダメだ。思い出せない」


 男はまた彼らを見て呟いた。


「神奈、アイツの上着着てるのか。なんで。なんでなんだ」


 男はギリっと歯ぎしりをする。


「アイツの正体さえ暴ければ……誰だ。えっと……」



「そうだ。アイツはたしか俺をいじめるクズなやつだ。そうだ。でもなんでアイツが神奈と」


 男は考える。

 彼の見つめる先にいる女子は、ソフトクリームを美味しそうに頬張っていた。百点満点の笑顔で。


「関係ない。神奈は俺と幸せになるべきなんだ。だから俺は……」






【あとがき】

次回で遠足編終わりです!

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