第5話 もはや流れ作業で滅ぼしていく
「そう? じゃあ私は街から出ていようかな」
「ちょっと待て、お前はこの者の発言をスッと受け入れられるのか!?」
当然のことのように流す理沙に、悪魔竜王はツッコミを入れる。いや、入れざるを得なかった。状況が異質過ぎるのだから。
「ん? 悪徳奴隷商とかそのドレイ・スキーとか言う人が憎いんでしょう? ならこの街ごと吹き飛ばした方が速いよ」
「お……おぉ?」
悪魔竜王は混乱していた。自分が聞いた限りでは目の前の二人は勇者パーティということになるのだ。その二人が容赦なく罪のない人も巻き込んで街を滅ぼそうとしている。それが全く理解できなかった。
「憎いんでしょ?」
「それは、そうなのだが……」
悪魔竜王は急にもじもじとし始めた。
「あのスキーという男はその、最後まで私が悪魔竜王だという事は信じなかったが……夜の営みは死ぬほど上手だったのだ。あの男がいなくなるのは世界の損失と言うか何というか……」
「メス堕ちしてたんだなお前」
悪魔竜王は完全に男を知ったメスの顔をしてそう語っていた。そう、スキーの技術は悪魔竜王さえ容易にメス堕ちさせてしまったのだ。
というか男を知らないどころか女も知らなかった。童貞竜王だった。にも関わらず彼は童貞を卒業する前に処女を卒業したのだ。女の子の気持ち良い所を開発されまくった彼はもはやメスだった(?)
「まあどちらにせよこの街は滅ぼす」
「話を聞いていたか!?」
「拓夢の邪魔しないで」
「むぐぉっ!?」
理沙は悪魔竜王を抱えて跳び、帝都から出る。そしてその数秒後、拓夢による爆発魔法が火を噴き帝都は一瞬にして地獄と化した。
「あぁ……」
そこら中で爆発が起こり、人々の悲鳴が巻き起こる。そして建物と人とその他色々なものが混じった臭いが辺りを充満する。拓夢は以前ヴィーネ王国の惨状を見ていたため、手っ取り早く街を滅ぼすなら火責めが良いと確信していた。
そして数十分もかからず、帝都は火の海となった。きっと明日には灰となるだろう。
「これでまた世界の崩壊に近づいたわね」
「ふぅ……いっちょ上がり。あ、そうだ。解呪!」
「お、おぉっ!?」
拓夢のついでの解呪により、悪魔竜王は元の姿を取り戻した。が、その表情には嬉しさと困惑、そして悲しさが入り混じっていた。
「元の姿に戻っても……もう私には何も無い」
魔王亡き今復讐をする相手もいない。そして自分を売った悪徳奴隷商も街と一緒に炭と化した。もう彼には戦う意味が……生きる意味が無かった。
「なら自由にすると良い」
「そうね。私たちも自由にしているから今があるの」
「自由……だと?」
「そうだ。自由は良いぞ。なんでも力で解決できる」
拓夢は曇りなき眼で悪魔竜王にそう訴える。
「そ、それは元勇者としてどうなんだ……」
「良いの。拓夢はもう勇者としての過去は捨てて蛮族になったから」
「清々しく語っているが、二人共結構ヤバイ奴になっておるからな?」
もはや悪魔竜王の方が正しいことを言っている。そんな異質な状況に耐えかねた悪魔竜王は二人のもとを去ることにしたのだった。このまま二人といては何か大事なものを失ってしまうと、そう直感的に思ったのだ。
「悪魔竜王の手も借りたかったが、まあ彼が自由にしていればそれなりに世界も滅茶苦茶になるか」
「そうよ。『悪魔』に『竜王』なのよ? これでもかと言うくらいとんでも要素を詰め込んでいるんだから」
「それもそうだな。はははっ」
明るくそう話す二人だが、その内容は決して明るく話すものでは無い。どちらかと言えば暗い部屋でテーブルを囲む悪の組織の幹部会議といった風味のものだ。
しかし狂ってしまった二人はそんなことには気づかない。そのまままた別の街へと向かって歩みを進めるのである。
そうして次に二人が訪れたのは魔都だ。ここは魔術師が集まって徐々にその規模を大きくさせて行ったという過去があり、とにかく魔法が発展しているという特徴がある。
「やっぱ何度見ても凄いな。これだけの街を滅ぼすのはもったいないが……ここだけ残すのもあれだしな」
「でもとりあえず見て回りましょう? 何か良い物もあるかもしれないし」
「そうだな」
大抵の道具は拓夢が作ることが出来るのだが、魔法の組み込まれたマジックアイテムとなると話は別だった。何か旅に使える物があるかもしれないため、二人は色々と店を見て回ることにした。
まず向かったのは雑貨屋。売られている物は使用後に勝手に洗浄される食器といった便利な物から、一秒ごとに火花が散る時計とか言う誰向けなのかわからないものまでジャンルは様々だ。
「自動洗浄か。これで洗い物をする必要が無くなるな。QOL爆上がりだ」
旅をするうえで自動洗浄の食器は便利なので、拓夢はまずそれを買った。
二人が次に向かったのは武器屋。と言っても武器を買いに来たわけでは無い。拓夢にはこん棒が、理沙には刀があるため新しく買い揃える必要は無いのだ。というか拓夢は広範囲に対しての殲滅魔法が使えるため、そもそも近接武器自体が一種の自己満足でしか無いのだが。
そんな拓夢が何故武器屋に訪れたのか。それは完全なるロマンが理由だった。と言うのも拓夢は魔剣だとか魔法の鎧とかそう言うのが大の好物だったのだ。魔王討伐の際はもっと強い装備があったためにそれを使っていたが、その役目から解放され死ななければ良い理論で好きな装備を付けられるようになった拓夢は止まらない。
拓夢はとにかく目についた魔法装備を買い揃えて行く。使いもしないのに。ハッキリ言って無駄遣いだった。だが何の問題も無い。金なら貴族の令嬢からふんだくった分や滅ぼした街から奪った分がたんまりあるのだ。
「いくら何でも買い過ぎじゃない?」
「良いんだ。こういうのは装備するのも良いけど持っているだけでも意味があるんだよ」
間違いなく、拓夢は積みゲー積みプラ積み読書をするタイプだった。しかしアイテムボックスといういくれらでも入れられるストレージがあるせいで拓夢の物欲は止まらない。結局、どう考えても使わない装備セットが三つくらい増えたところで武器屋での買い物は終わった。
二人が最後に訪れたのは食料品店。旅をするうえで現地調達では限界があるのだ。携帯食料はアイテムボックス内に死ぬほど入っているが、パッサパサで味も薄いため数日間朝昼晩と食い続ければノイローゼになる。だがそんな二人に光明が差す。ここ魔都の食料品には冷蔵魔法がかけられており、例え生肉であっても数日から数か月持つのだ。
そんなわけで大量に食料を買い込んだ二人はもはや無敵。もうこの国に未練は無かった。とは言えせっかくだからと数日ぶりの宿に泊まったのだった。
「良い湯だったわね」
「ああ。流石は魔法の国。風呂が一般的に普及しているとは恐れ入った」
火の魔法と水の魔法を利用した風呂用のマジックアイテム。それがこの国では一般的に普及していた。そのため二人は久方ぶりに風呂に入ることが出来たのだ。一応拓夢の洗浄魔法でシャワーのようなことは出来ていたが、やはり日本人である以上は湯船につかりたいという本能があった。
「それじゃあ後は寝るだけだな」
「……本当にそれで良いの?」
「……」
やはりと言うか何と言うか。ここでも二人の熱い夜は続く。
翌日、物資も肉体も精神も満足した二人は少し勿体なさを感じつつも魔都を滅ぼした。一瞬だった。魔都の全エネルギーを賄っている魔導ジェネレータを融解させ、大規模な爆発を起こさせたのだ。きっと皆苦しむことなく一瞬で蒸発した事だろう。
「もう少しいたかったけど、居心地が良くなり過ぎると滅ぼし辛くなっちゃうものね」
「ああ。神への復讐を完遂するまで、俺たちに安寧は訪れない」
もっともらしいことを言いながら、二人はまた歩みを進めたのだった。
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