庶民転生 ~異世界最強勇者、現代日本の一市民へと転生し、気楽に生きる~

木持河類

第0話 勇者、死す

 勇者。

 魔王と対を成す、人の世界を守護する存在と言われる。

 魔王と勇者が相対するとき、どちらかが倒れ、世界は大きくその天秤を傾け、時代が変わるといわれる。


 ――人間の世界ならば、世界を救った救世主として、伝説になる存在である。

 だが、魔王が勝てば、魔界の勢力が世界の大半を支配することになる。そして、魔族が世界の主役となった世界と変わったことであろう。


 勇者も、魔王も、それぞれの世界と種族を背負って戦っていることに違いはない。

 だが、人類も、魔族も、それぞれの論理とそれぞれの生存理由で戦っている。

 そこに和解の道がなかったわけではないが――今となっては、戦う以外に道がない。

 それを嘆き、和解のための道を模索するためには、双方とも相手を殺しすぎた。


 勇者か、魔王か、どちらかが倒れて、未来を掴まなければ、人にも、魔族にも未来はなかった。


 そして――勇者と、魔王は、互いの種族の未来を賭けて戦った。

 戦いは三日三晩続き――


 勇者は、魔王と相打ちとなり、戦場に果てた。




 勇者は、薄闇の中にいた。


 そう、これは確か――


「おお勇者よ、力尽きてしまったか――だが、その使命、見事に果たせたこと、喜ばしく思うぞ」


 「神」。


 かつて、勇者が一市民であったとき、同じように夢の中で「勇者となり、魔王を討て」と天命を与えた存在である。


 ――勇者は、魔王を倒すために、その人生の全てを捧げた。

 彼の死後、世界は勇者を「人類の救世主」と称え、世界にその偉業を知らしめたが――その世界に、勇者はすでにいない。

 彼は、自分の力によって救われた世界を見ることも、その平和を堪能することもなく、その命を終わらせることになった。


「そこでじゃ――勇者よ、お前に新たな人生を与えよう」


「新たな人生、ですか」


 新たな人生――今度は勇者でない、一市民として、平和な人生をまっとうできるのであろうか。


「うむ。まさにそれである。

 おまえの偉業は、人類という種を救ったことにある。

 ゆえに、おまえには平和な人生を送る権利がある。

 おまえの魂を、平和な世界で一生をまっとうできるよう、転生させよう。

 そこで改めて、平和な世界を、一市民としてゆっくりと過ごすがよい」


「ありがとうございます。

 改めて、平和な世界で、平和で平凡な人生を送ろうと思います。

 それこそが、平和の証明なのですから」


「うむ。

 おお、そうそう――平和な世界とはいえ、何があるか解らぬ。

 勇者として得た力、そして今までの記憶を持って行くがよい。

 勇者の力があれば、万が一の事態も大過なく過ごせよう。

 もし近しい者に不運が訪れても、その力があれば救うことができよう」


「ありがとうございます。

 これで何の心配もなく、平和な人生を送ることができます」


「うむ。では、ゆくがよい」


 世界は、薄闇から光の世界へと変わり――


 俺は、多分「転生」した。


 夢にまでみた、戦いの果てに求めた、平和な世界へ。





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※本日投稿開始につき、第五話まで本日中に投稿します。

 「面白そうじゃね?」と思った方は、↓から続きをどうぞ!




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