第3話 一歩?

 この世界に転生?してから数日たった。


 徐々にこの世界にも慣れ始めて、違和感が無くなってきている。だが、心配していることがかなりある。


 元の世界の俺は、どうなってしまったのかということ。これが長い長い夢の中ならまだいい。だけれど、あのまま放置されて腐っていく自分の体を思うと少し不憫に感じる。


 それに、両親に挨拶も告げずに来てしまったから、最後くらい挨拶しておきたかった。


 あとは、突然俺が元の体に戻され、リアムの人格が元に戻ったらソフィアがまた可哀そうなことに成るんじゃないかという懸念だ。

 

 というかそれを一番心配している。


 今、やっとソフィアがほんの少しだけれど心を開こうとしてくれているからそれがまた閉じてしまうと次に開けるのはものすごく困難なことに成ってしまうし、最悪な方向へと向かっていく可能性すらある。というかその可能性が高い。


 シナリオ以上に残虐的な殺し方さえするかもしれない。


 それだけはどうにかして避けなければならないと思うと、俺に残っている時間って半年もないんじゃないかと思えてきた。もしかしたら明日には元の体に戻っているかもしれないし。


 いつ、元の体に戻るかも分からないのにそんなに悠長にしている暇はない。ソフィアの心を、あの濁った何も映していない眼を正常に戻してあげれば俺がいなくなった後、主人公がどうにかしてくれるという望みに賭けられるが、今はまだその段階にも行けていない。


だがしかし、急いては事を仕損じるということわざもある。昔の人がきっとこういう場面に直面した時に思いついた言葉だ。


 慎重に、たが迅速に解決することが重要なわけである。


 …クソ難しくないか?


 でもやるしかない。ソフィアが笑えるような未来にしたいから。


「ソフィア、いるかな?」

「は、はい。お兄様。空いているので入ってきていただいて結構です」


 彼女はとても女の子らしいとは言えない殺風景な部屋で魔法書を広げて勉強していた。


 なんて健気でいい子なんだと思う。


「それでお兄様、何か御用でしょうか?」

「いや、用はないんだけれどソフィアとお話がしたくて。だけれど熱心に勉強をしているみたいだから邪魔するのも悪いし戻ることにするよ」

「い、いえ、ここら辺で勉強も終えようと思っていたので大丈夫ですよ」

「本当に?」

「はい」


 ソフィアは椅子から立ち上がって俺と向き合うように立つ。


 ほんの少しだけ心を開いてくれたと言ったように本当に少しだけで、未だに僕を見る目は濁った黒ずんだ目だ。


 本当に、何も映していないからのような目ではないくて良かったと思う。


「もし勉強で分からない所があれば俺に何でも聞いていいからね。教えられることだったら何でも教えるから」

「ありがとうございます。その時が来たらお兄様のお世話になります」

「うん」


 丸テーブルに持ってきたお菓子と紅茶を置いて二人で椅子に座る。


 どうして使用人に用意させないかというと、ソフィアが使用人やこの家の人間と少しでも関わりがあるのは嫌だと思うからだ。


 使用人たちに陰で何かをコソコソ話されてもニコニコと笑みを浮かべているソフィアだがその心労は凄い物だろうから。


 まぁ、かくいう俺もソフィアの心労を増やしている中心人物なんだけれどね。


 今も何故突然俺がソフィアに優しくなったのかを表には出さないけれど探っているだろうし戸惑っているだろう。

 

だから、俺はその心配がなくせるように努力していくしかない。


「ソフィアの好きなものって何?」

「好きなものですか........そうですね........」


 ソフィアは一生懸命俺の質問に答えようとしてくれているが、中々思いつかないようだ。


「ごめんなさい、何も思いつきません」

「........そっか」

 

 ―今、思ったがそもそも彼女の人生において好きなものというものが無いのも仕方のないことだと気づく。

 

 何も与えられていなかったのだから好きなものなんて言われても思いつかないのかもしれない。


 ならば........


「ソフィア、ごめん。少し街へ行ってくる」

「え?は、はい」


 何も考えはつかないけれど、ソフィアに何かプレゼントをあげたいなと思った。


 屋敷を飛び出して領内にある街へと行く。


 使用人や両親がうるさかった気がするけれど、無視してきてしまった。まぁ、あんな奴らの話なんて聞く必要もないだろう。

 

 年頃の女の子と言えば、何がいいのだろう?


 前世では美容系の無難に使い切れるものを送っていたけれど、妹へと送るプレゼントだしそれに何か残るようなものにしたい。

 

 それにしてもこの王都は広いよなぁ。


 色々ものがあるし、迷ってしまう。


 しばらく色々見て回っていると、少女と母親が仲良く手を繋いでいるところを見る。


 少女の手にはウサギのような魔物が可愛くデフォルメされたぬいぐるみがあった。


 ぬいぐるみかぁ........。ソフィアも十四歳だしぬいぐるみは少し子供っぽいか?だけれど、形に残って女の子っぽい可愛いものと言えばぬいぐるみくらいじゃないか?


 よしっ。


 早速俺は玩具屋へと足を運び、ソフィアが気に入ってくれそうなぬいぐるみを吟味してウサギ、クマ、イノシシが可愛くデフォルメされたかなりの大きさのぬいぐるみを買って屋敷へと戻る。


 ぬいぐるみをどうやって運んだかというとレビテトと呼ばれる重力操作魔法でそれぞれのぬいぐるみを浮かせて運んだ。


 かなり操作の難しい魔法だけれど、流石天才とされているリアム。体がスムーズに動いて難なく使うことが出来た。


 家に戻りソフィアの部屋へと行く。


 喜んでくれるといいんだけれど。


「ソフィア、入ってもいいかな?」

「はい、どうぞ........って、お兄様、どうしたんですか、これ?」


 彼女の濁った瞳に驚きが混じる。


「ソフィアが好きなものないって言っていたから、何かプレゼントしてあげたくなって買ってきちゃった」

「そ、そうですか」


 ソフィアはオズオズと俺に渡されたウサギのぬいぐるみを抱いて感触を確かめている。


 俺の見間違いじゃなければその顔は少しだけ年頃の少女のようでぎゅっと胸を掴まれるような感覚になる。


「気に入ってくれたかな?」

「は、はい。ありがとうございます、お兄様」

「うん。あ、でも気に要らなかったら僕に渡してね。孤児院にいってぬいぐるみを子供たちに渡してくるから」

「いえ、その........とっても気に入りました」

 

 ぬいぐるみに顔を埋めて俺の方を上目遣いで見るソフィアの仕草に胸がときめく。


 やっぱりソフィアはものすごく可愛い。


「あ、あとそのぬいぐるみ以外にもこれと、これも」

「え、こ、こんなにいいんですか?」

「うん、あ、でも飾るところがないね........ベッドに全員置いたらソフィアが寝られなくなっちゃう」

「そうですね」

「だから、ソフィアのベッドとか家具とか一新しちゃおうか」

「え?」

「何か思入れのあるものだけは残すから、そこは安心してね」

「は、はい」


 この部屋に出入りしていて毎回思っていたので、この際木製の古いベッドとかを一新させてあげたいなって思う。


 ソフィアに何かこの部屋で思入れのあるものがあるかと聞いたところ魔法書以外は何もないのとの事だった。


「あの、お兄様」

「何?」

「ほ、本当にそこまでしてもらってもよろしいのでしょうか。こんな私が」


 といつもの曇った瞳に何かに恐れるような不安が混じる。


 きっと俺の気が急に変わるんじゃないかとか、今まで自分にしてきた仕打ちを考えれば何かきっと裏があるんじゃないかと考えているのだろう。


 俺はソフィアに近づいて緊張しながらもそっと彼女の不安を消せればいいなと思い出来るだけ優しく抱きしめた。


「大丈夫、俺はソフィアの事を絶対に裏切らない。今まで本当にごめん」

「お、お兄様」


 ソフィアはぬいぐるみを貰った時以上の驚きをみせビクッとする。


 一瞬、ソフィアが抱きしめ返そうとしてくれたが、その手は手持ち無沙汰に下された。




 


 






 







 


 





 



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