偽聖女として追放されそうになりましたが、それを知った女神様が激怒したので大変な事になりました
第1話 偽聖女として追放されそうになりましたが、それを知った女神様が激怒したので大変な事になりました《後編》
第1話 偽聖女として追放されそうになりましたが、それを知った女神様が激怒したので大変な事になりました《後編》
『姪のアメリーからの面会申請があった。ちょうど手すきだったので承諾し、久しぶりに会う事にした。
姉から渡されたであろう教会への心付けを携え現れたアメリーは、見習い聖女にさせてほしいと頼んできた。
見習い聖女はこの教区の設立時には無かった制度ではあるが、聖女に憧れる貴族令嬢の要望がきっかけで始まったもので、今では神殿で聖女として活動したという箔付けにもなっている。
見習いの件は姉には話を通していない様だったが、とりあえずアメリーの話を聞いてみた。
どうやらアメリーはエドヴァルド王子の寵愛を受けているらしい。
そのエドヴァルド王子といえば、聖女ジークリットの婚約者で二人は不仲だと言われている。
これはチャンスではないか? ジークリットを偽聖女として失脚させ、アメリーを次期筆頭聖女にしてしまえばいい。
能力の無いアメリーはお飾りの聖女でしかないが、未来の王子妃になる事で王室への発言権を強める事も出来るだろうし、エドヴァルド王子が後継指名されて次期王になれば、私の影響力は高まる。
なぁに、実務はいつも通りジークリットにさせればいい。派手に婚約破棄されれば貴族令嬢としては傷物扱いで終わりだ。あの娘は能力だけは本物だし、守秘義務云々とでも言って神殿付きにさせれば問題ないだろう』
「……これはどう見ても
「なるほどな。たまに
大司教トゥーサン・ジローの
「お前、ただの大司教なのに、
トゥーサンに詰め寄る女神エイルの言の葉から「絶対許さぬ」という二重音声が聞こえる。ジークリットは困っている人がいるならという事で聖女として仕事を選ぶ事なく精力的に活動してきたが、女神エイルから見ればオーバーワーク気味だったようだ。
「しかも、
女神エイルに「頭おかしい」と言外に示唆されたトゥーサンのライフはゼロだった。
「それと、見習い聖女の制度の話は初耳なんだが、説明してもらおうか」
「教会を運営するにも金がいるのです!」
色々暴露されてしまった後だったので説明も何もない状況だったが、苦し紛れにトゥーサンは答える。
「まとまった金が要るのはわかるが、運営の金の一部を吸い上げ、私腹を肥やしたのは誰だ?
鋭く指摘され、反論の言葉が出ないトゥーサン。お前たち、と複数形で言及した事で教会の腐敗にも触れた女神エイルは「拝金主義め」と吐き捨てる。
「決めた。無関係の民には悪いが、この国の教会本部を破壊する事にした。修繕はお前達が貯め込んだ金のみ使用する事。教会の運営費には手を出すなよ? 修練で聖女の力を高めた者は今まで通り私が認定していくが、箔付け目的だけの者がまた出れば、何度でも壊しに行くからな」
女神エイルの決定と脅しに、トゥーサンに随行して共に式に参席していた教会幹部達はひええと情けない声をあげた。
「何それ面白そう。私もやっていい?」
「勿論だ」
次の瞬間、二柱の女神の姿が消え──何か重いものが落ちてきたような、どすんという衝撃が大地を揺らした。
講堂内にいた者達の目線では、四本の巨大な樹がいきなり生えたように見えたが、少し離れた場所からこの場所を見る事が出来たら、見上げるほど大きな巨人のように巨大化した二柱の女神がそこに降臨したのを目撃出来た筈だった。
「まぁ、なんだ。性格の不一致はよくある事だ。政略婚であれば嫌でも維持せねばならぬ事も多かっただろうが、ここまで派手にやってしまったのだから白紙にするしかないだろうよ。ジークリット、婚姻する前でよかったな」
巨大化した女神エイルの掌に上にいつの間にか移動していたジークリットは、女神エイルに晴れやかな笑顔で言われてしまい答えに窮しながらも頷く。派手にやらかしてしまったが、エドヴァルドは一応自国の王族なので公の場で貶めるような真似は出来ない。
「ジークリット、お前は今日色々あって疲れただろうから、家にお帰り。今日はよく寝て、明日起きた頃には全てお前の良いようにしておこう」
女神エイルから気遣いの言葉をもらったジークリットはその刹那、自宅の寝室へ転移していた。纏っていた衣装はいつの間にか寝衣に変わっていて、女神の言霊の通りに眠りについてしまう。
◇
「…………」
聖女ジークリットを家に帰した女神エイルはパチンと指を鳴らし、目と鼻の先にあるエルヴァスティ王国の教会本部へと足を進める。その後を、女神ウルズはスキップしてついていった。
指が鳴った直後、閉じられていた講堂の出入り口が自動で開放され、扉の前で待機していたらしき国王と王国の騎士達が整然と中へと突入してきた。
国王が騎士を引き連れて現れた事で講堂内は騒然となるが、女神が施した戒めは未だ解かれていないので構内にいた者達は目線で国王が進むのをただ見るしかできず──その国王の視線の先には、父親の姿を見て悲鳴を上げそうになっているエドヴァルドの姿があった。
「エドヴァルド、外で全て聞かせてもらった。お前は何という事をしてしまったのだ……」
まだ拘束が解けていないエドヴァルドの前へツカツカと歩み寄った国王が嘆く声を耳にしながらも、女神エイルの意識は教会へと向いていたので目的地へと向かう。
とはいえ、エルヴァスティ王国学院の敷地と教会は接していたので、目標への到着はすぐだった。
女神エイルは事を始める前に、怪我人を出さない為に建物内を始め周辺に居た人間や小動物などを先程までいた学院の講堂へ転移させた。転移と同時に、ジークリットの潔白の証人としてあの場に居てもらった者達の拘束も解いた。
王子やその恋人と関係者の戒めは継続したままだったが、両手を組んで手首を柔らかくしたり両腕を回して肩をほぐしたりと、軽く準備運動する。
「始めるか」
女神エイルがグーにした右手を大きく振りかぶる。
まず最初に、教会名物と言われている壮麗な縁窓のステンドグラスが破壊された。女神ウルズも負けじと両手をチョップの形にして「とうっ」という掛け声を上げながら別のステンドグラスをパリンパリンと割っていく。
周辺にはガラスが割れる音が響き、美しいステンドグラスが次々と無くなっていった。
「楽しいねぇ」
無邪気に笑いながら教会本部を破壊する女神ウルズの声が周辺に響き──その日は二柱の女神による厄災の日となった。
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