報告
王族であるリヒター様とマリアンナ様が民たちに対し、とてもフレンドリーに接することも人気の秘密だ。
今までの俺とのやり取りからも分かるように、あの二人は調竜師である俺に対しても同じようなもので、もちろん他の人にも態度を変えることはない。
「さて、突然呼び出して済まなかったな」
だからこそ、こうして呼び出されてもあまり怖いなんてことはない。
流石に王座のある広間だと注目を浴びることを考慮してくれたのか、リヒター様たちに呼び出された場所は別室だ。
一体何の用か、あらたか検討は付くが話を聞くことに。
「あなたとルーナ様の結婚式に関してなのだけど、前々から言っていたように大袈裟なものにはしないから安心してちょうだいな」
俺は頷いた。
こうして俺たちのことで王族の彼らが動いてくれるのは身に余る光栄ではあるのだが、確かにルナのことを考えればあながち間違ってもいない。
ルナが人の姿になることが出来るのは相変わらずの秘密なので、あくまで俺とただの人間であるルナの結婚式という体裁は崩れない。
「我ら王族が親身になって調竜師の結婚式を執り行う……それは多くの懐疑的な目を向けられるだろう。故に、それを和らげる意味も込めてドラゴンの女王に仕えるそなたを労うという意味もある」
「なるほど」
「まあ安心するが良い。出席する人間は余の信頼している者たち、そしてそなたの知り合いたち……後は何があっても騒ぎが起きないように、そなたを好いているレーナとキーアを傍に置く」
確かにそれなら絶対に騒ぎなんて起こそうとは思わないな……。
とはいえ、王族としてルナの対応を含め、同時に俺のことも考えてくれていることは本当にありがたい。
こうしてしようとしてくれていることは良い塩梅になるんじゃないだろうか。
「本当にありがとうございます。リヒター様、マリアンナ様も」
「気にするでない」
「えぇ、力になれて嬉しいくらいだから」
それから簡単に話をした後、俺は彼らの元を後にした。
話にもあったがあまり大袈裟にはしないというのはありがたい提案で、そもそもルナも結婚式というものを俺と挙げることには意欲があるのだが、そこに誰が来るかなどは興味がないようで、とにかく結婚式を俺と挙げることが大事なようだ。
「……でも、まさかだよなぁ」
本当にまさかだ。
こうしてルナと心を通わせ……まあ、以前から会っていたことを加味すればもしかしたら良い関係を築けるかもしれないとは考えただろう。
それがこうして実際に彼女と深い仲になり、人ではないドラゴンであることを知ってもこの想いは変わらなかった。
「あ、そうだ指輪」
こういう時、指輪というものが必要になることは知っている。
幸いに給金もあってお金の余裕はあるし、そもそもあまり使うことがなかったので貯金もそれなりにたんまりだ。
というかお金のことで思い出したのだが、ルナは人になれるようになった段階でお金を貯めているとのことで、既に俺の貯金を圧倒的なまで越えていたのは素直に驚いた。
『私はドラゴンの女王よ? これくらい余裕よ!』
そう言って胸を張っていた彼女はとても可愛かった。
既に今日はルナの世話は終わっているので、俺はすぐに城下町で装飾品を手掛ける職人の元に向かった。
その店はリトも奥さんへの指輪を作ってもらったところでもあるので、これもまた小さな縁だ。
「すみません」
「おうよ。ちょっと待ってな」
出てきたのは筋肉ダルマ……じゃなくて、物凄く筋肉質なおっさんだった。
近々結婚式を挙げることを伝えると、おっさんはおめでとうと朗らかに笑い、最高の指輪を作ることを約束してくれた。
「……っとそうだ。赤い宝石ってあります?」
「今日入って来たばかりのルビーがあるが……かなり高いぞ? 値段も跳ね上がっちまうが」
「大丈夫です。これで……いけますか?」
「兄ちゃん大した金持ちだな。よし分かった、こいつをはめ込めば良いんだな?」
「お願いします」
何故赤色の宝石を選んだかというと、単純にルナの目の色と同じだからだ。
彼女は装飾品のようなものに拘りは一切ないだろうけど、結婚指輪ってのは人生で最初で最後のはず……まあ俺がルナと別れて再婚ということになれば話は変わるかもしれないけれど、そんな未来は絶対になさそうだし。
「……?」
気のせいか、ルナの声で当たり前だろと聞こえた気がした。
これで今日したかったことの全てが終わったので、俺は宿に戻る……そして建物のを前にした時、少しばかり感慨深かった。
「……思えば王都に来てからずっとここで寝泊まりしてんだよな」
ルナと話して結婚をした後は家を持つつもりだ。
彼女の魔法も使って部屋の一部をドラゴンの世界へと繋げるようにすることで、本当の意味で俺とルナは同じ屋根の下で過ごすことが出来るようになる。
このことは彼女がリヒター様たちに話を付けているとのことで、その日が来るのがとても待ち遠しい……けど、少しだけ寂しい気持ちもある。
「お、帰ったのかゼノ」
「おっちゃん……」
「うん? どうした?」
ここに居る間、いつも俺の面倒を見てくれたのもおっちゃんだ。
俺にとっては親代わりみたいな部分もあって……まだリトたちにも伝えていないけど、俺はストレートにこう伝えた。
「おっちゃん、俺……近いうちに結婚するんだ」
おっちゃんは目を丸くしたが、一切疑ったりせずに笑顔でこう言った。
「そうか。おめでとう」
「……へへ」
「そうと決まったらさっさと入れよ。良いモノを今日は作ってやる」
「ありがとな!」
その日、おっちゃんが作ってくれた料理は凄く豪華でとても美味しかった。
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