朝の目覚め

「……うん?」

“起きたか?”


 朝、目元に当たる優しい日差しを受けて目を覚ました。

 ボーっとする頭が段々と覚醒していくとしっかりと目の前に居る存在の輪郭が見えてきて……俺はドラゴン体のルナに見つめられていることに気付いた。


「……おはようルナ」

“おはようゼノ”


 いつも聞いていた彼女の声、しかし今はいつも以上に優しく感じる。


「……あ」


 そして思い出す。

 昨晩、俺はルナと繋がり……初めてのことではあったけど、自分の本能の向くがままに彼女と求め合った。

 顔を赤くした俺を見てルナは笑った。


“思い出したのか? まあ私も先ほど目を覚ました時は似たものだったが、それにしても良い夜だった。突然だったのに受け入れてくれて嬉しかったぞ”

「……そんなの当たり前だろ? 確かに突然だったけど、キスまでされてちょっと待ってくれなんて言えるわけがない。まあ、それって俺の意志の弱さかもしれんが」

“ああいう時くらい意志の弱さを見せてくれないと困る。そもそも、私とて後に退くつもりは微塵もなかったからな。ほら、人間同士のやり取りの中にこんな言葉があったはずだ――既成事実は作ったもの勝ちと”

「ルナさん、君は一体何を見てそんな知識を得たんだい?」

“マリアンナが言っていた”


 マリアンナ様あああああああああ!?

 あの人一体何を吹き込んでやがるんだマジで……いやまあでも、そのおかげで俺はルナと繋がることが出来たのか? いやいや、それでもルナが人になれることはマリアンナ様も知らないはずなので……えぇ?


「あの方はルナの秘密を知らないはずだよな?」

“うむ”

「……ならなんで既成事実なんて言ったんだ?」

“あぁそういうことか”


 すると、おもむろに彼女は立ち上がった。


“先に言っておくが、別に恥ずかしくないわけではないのだぞ? だからパッと見て理解して納得しろ”

「??」


 彼女が見ろと言ったのは股の部分で、ジッと見ていたらじんわりとした何かが零れだし、そのままねちゃっと音を立てるように開いた。

 俺はそれを見てハッとするように視線を逸らしたのだが……ドラゴン体のはずなのに俺はその正体を知った。


“こ、こういうことだ。昨日言っただろう? ドラゴン体でも別に問題はないと、その言葉の意味はこれだ”

「そ、そうなんだ……へぇ」

“うむ……うむ……”


 ……すまない、俺には少し刺激が強すぎたようだ。

 とはいえ……綺麗だったなぁ、なんてことを思っていると頭を後ろから軽く小突かれたので、きっと俺が考えていたことをルナは分かったのだろう。


“あまり考えるんじゃない……見せた私が悪いのだがな”

「いや、俺の方こそ悪い」


 俺たち、朝っぱらからどんな会話をしてるんだよ。


「……ふぅ」


 一旦深呼吸をして俺は落ち着いた。

 何度も考えてしまうが、昨日俺はルナと本当の意味で繋がった……それはつまり、俺たちはお互いにお互いの気持ちを受け入れたということに他ならない。


「なあルナ」

“うん?”

「俺たちは昨日、愛し合ったわけだけど……そういうことなんだよな?」

“……あぁ。そういうことだ”

「えっと……よろしく」

“っ……うん♪ よろしくゼノ!”


 このよろしくはつまり、ルナとそういう関係になったということだ。

 ただこれは恋人とかそういう関係性に似ているようで違う、そんな感じのモノだと俺は思っている。


「まあ、俺とルナがパートナー同士ってのは変わらないし……あれだな。今までとあまり何も変わらなそうだ」

“そうかもしれない。しかし、気持ちの持ちようはかなり変わるはずだ。今まで以上に傍で世話をしてもらわなければな? 期待しているぞ、私の調竜師”

「……はは、分かった。精々お世話させてもらうぞ女王様」


 そんなやり取りをした後、俺たちは次の目的地に向かうために空に飛んだ。


「……あ~」


 体を解すように腕を伸ばすととても気持ちが良い。

 外で寝たということで体が痛くなると思ったが、ルナの魔法に包まれていたのもそうだし、彼女の体に触れながら眠ったのもあって不調は全くない。

 それどころか……何だろうか、かなり体の調子が良い。


「……?」


 試しに手の平を閉じたり開いたりしてみる。

 たったそれだけのことで何が分かるんだと思われるだろうが、心なしか本当に体がどこか丈夫な気がするのだ。


“どうした?”

「……あぁ。なんか、体の調子が良いというか……気のせいかもしれないけど」

“いや、気のせいではないぞ”


 ポカンとする俺にルナは教えてくれた。


“昨日の行為の最中に私が飲ませたものがあるだろう? アレは私の中で生成された体液、つまり血液に等しいものだ。ゼノの感覚からすれば甘かっただろうが、そういう効能がある”

「……あ!?」


 そう言えばそうだったと俺は声を上げた。

 突然彼女の膨らみを口に当てられたと思ったらいきなり何かが流れ込んできたのには確かにビックリしたけど……あれってそういうものだったのか。


“私はゼノと離れたくない……ダメとは思いつつも我慢が出来なかった”

「……なるほどな」

“もちろん、効果を消すことも出来る――だがどうか、その時は私も共にお前の傍で眠らせてくれ”


 その言葉が何を意味するのか理解した俺は頷き、飛び続ける彼女の背中をずっと撫で続け……そして、俺たちの二日目の旅が始まりを告げるのだった。

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