こ~れお怒りです
ドラゴンとは国を守ってくれる存在であり、同時に騎士たちと共に戦ってくれる存在でもある。
俺たち調竜師に対して高圧的な態度をしてくる騎士やお偉いさんは多いのだが、彼らもドラゴンに対して逆らうことはしないし、道具のように扱うことも絶対にしないので、その点だけは弁えているんだなとちょっと複雑な気持ちになる。
(……騎士かぁ)
もしも騎士になるための適性があったのなら俺はそっちに行っていたのか、そうなっていたら調竜師になることもなかったのでルーナと会うことが出来なかったと考えると……やっぱり調竜師で良かったなと心から思う。
「よしよし」
“……………”
体を丸めているルーナの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに鳴き声を上げた。
……うん、やっぱり俺はこうして彼女ともそうだけど、ドラゴンたちと過ごしている方が性に合っているかもしれないな。
とはいえ、少しばかり騎士になっていた自分を思い浮かべることもある。
「なあルーナ、俺は騎士になってたらどうなってたかな?」
“……………”
そう問いかけると、ハッキリと彼女は首を横に振った。
それは想像できないという意味ではなく、騎士としての才は絶対にないから諦めろという女王様からのありがたい忠告だ。
そのことにショックなんて思うわけもなく、俺は苦笑しながら彼女の頭を撫で続けていると更にルーナは俺をジッと見た。
“……………”
毎度思うことだけど、俺は別に明確に彼女の言葉を理解しているわけじゃない。
ただこう語りかけてきているんじゃないかと思ったことが何故か一度も外れていないだけだ。
その上でルーナが俺に言ったこと、それはもしも俺が騎士になっていたら常に自分が傍に居ると、だから大丈夫だと彼女は言っているのだ。
「……そうか。ルーナは本当に優しいな」
“……………”
当然だと彼女は舌を出してペロッと舐めてきた。
最初から俺が騎士だったら会えてなかったと思うけど、どうやら彼女はもう俺と出会っていない世界線のことは一切考えていないらしい……故に、俺が騎士だったとしても絶対に出会っていると考えているようだ。
「ルーナが傍に居たら絶対に死ぬことなんてない――」
“……………”
死ぬことはないんだろうな、そう言おうとしたがルーナが唸り声が上げた。
彼女の瞳はいつもより赤く燃え上がっているようにも見え、静かに怒りの奔流を俺に感じさせる……そうか、そんなもしもことは言うなってことだな。
「ごめんな。物騒なことは言っちゃダメだった」
それからしばらく、ルーナは俺の頬を何度も何度も舐めてくるのだった。
基本的に生き物にべろんべろんに舐められたら涎でベトベトになるのが普通だと思われるのだが、ルーナが何かの魔法を使っているのか基本的にすぐに乾いてしまう。
かといって臭いも残らないしで……本当にどうなってるんだろうか。
「……騎士かぁ」
“……………”
諦めろよいい加減に、そんな言葉が聞こえてくる。
そんな中で俺は一つ、彼女に提案する――これは初めてのことだ。
「なあルーナ、もしも俺が背中に乗せて飛んでくれって言ったら君は――」
言い終わる前にルーナは体を起こし、頭をクイッと動かして背中に乗れとアピールをしてきた。
俺は良いのかなと思いつつ、せっかくの機会だからとその背中に上った。
「……おぉ」
騎士はドラゴンと戦う際に背中に乗ることも多いと聞くが、正に今の俺の景色が騎士の見る景色なんだろう。
これでもいつもより視線は高いというのに、ルーナは雄叫びを上げてスッと空中に浮いた。
「……すっげぇ」
本当なら音速を越えるとまでは言わずとも、速く急上昇も出来るだろうに彼女は俺を気遣っているのかとにかく緩やかだった。
そして高度も高くなったところでルーナは散歩をするかのようにゆっくりと翼をはためかせて飛び始め、俺はこの世界を初めて空から見下ろした。
「あ、お~いリトぉ!!」
空から呼びかけても聴こえるわけがないのだが、それでも叫ばずにはいられない。
結局、最後の最後までリトを含めた同僚のみんなに俺がルーナの背中に乗っている場面は見られず、そしてルーナが飛んでいるのも雲に隠れて見られることはなかったのだった……ただ、自由に飛んでいた他のドラゴンたちは一斉に地上に降りたのでたぶんだけど……怖かったんだろうなぁ。
“……………”
飛行を終えてどうだったんだと尻尾をぶんぶんと振るルーナの頭をまた撫でる。
「ありがとうルーナ。マジで貴重な体験だったよ」
この世界だけでなく、城の外も飛べたら気持ちが良いんだろうなぁ。
何となくだけど……いや確実にルーナは外も飛びたいって言ったらどんと来いってまた背中に乗せてくれそうだけど、流石にただの調竜師がドラゴンの背に乗っている姿を騎士たちに見られると面倒なことになりそうだからな。
(ここには騎士たちは来ないからまだ良いんだけどな)
まあでも、いずれは実現してみたい夢と思っておくのも良さそうだ。
「それじゃあなルーナ、今日はこれで帰るよ」
“……………”
そして分かりやすくしょんぼりとしたルーナに俺は苦笑した。
荷物を纏めて神殿から出るまで、ジッとルーナが寂しそうに見つめてくる姿は本当に後ろ髪を引かれる思いだったが、俺は手を振って彼女と別れるのだった。
「……ルーナの元で一晩寝てからもっと甘えん坊になった気がするな」
ボディタッチ然り、舐めてくることも増えたが可愛いことには変わらない。
ルーナとの日々は本当に楽しいし、これもまたルナとの話の盃になりそうだなと俺はまた彼女に出会えることもワクワクしていた。
それから後は宿に帰るだけだったのだが……そこで問題が発生した。
「生意気な調竜師めが。明日からこの城に立ち入ることは許さん――やれ」
「はっ」
お偉いさんが近衛騎士に命令し、俺の首に掛かっていた調竜師の証を奪い取り彼はそれを剣で真っ二つにしてしまったのだ。
あれは俺たちが調竜師である証であり、同時に城に入る通行証みたいなものだ。
それを失った時点で基本的に調竜師としての資格は失われてしまう。
「そ、そこまでするなんて……」
俺の背後で泣きそうな声でメイドさんがそう言った。
引き裂かれて廊下にバラまかれた証を呆然と見つめながら、どうしてこうなったんだと思い返すのだった。
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