ルーナとのことを話しまくる

 人間離れをした美しい容姿のルナ、彼女との出会いは唐突だった。

 調竜師としての仕事が休みだった日、この辺りはドラゴンが常に空から目を光らせているということもあって安全だ。

 だからこそ俺は探検がてらここに足を踏み入れ、この綺麗な泉を見つけた。


『あら、あなたは?』


 そこで俺はルナに出会ったのだ。

 どうしてこんな場所にこんな美しい女性が、なんてことを当時はポカンとしながら思っていたけど、その時の彼女は足に擦り傷を負っていた。


『足、怪我してるじゃないか。ちょっと見せてくれ』

『必要ない――ってこら!』


 その時から調竜師としてドラゴンの世話をしていたし、怪我をした時の治療なんかも簡単にしていたからか、やっぱりどんなに軽い傷ではあっても気になったわけだ。

 人間とドラゴンは違っても、応急処置の手順は似たようなものだしな。

 その時、妙にルナが俺を不思議そうに見ていたのは気になったけど……俺と彼女の時間はそこから始まった。

 あぁそうそう、ルナと出会った次の日に彼女とも……ルーナとの時間も始まったのはちょっと運命を感じたかもしれないな。


▽▼


「何を考えていたの?」

「え? あぁ、ちょっとルナと出会った時のことをね」

「あぁあの日ねぇ」


 ルナと合流したとはいえ、特に何をするとかはない。

 彼女は静かな場所で居眠りをするのが好きと言っているくらいなので、基本的に街の方には近づかないそうだ。

 お互いに肩を合わせるようにしながら大木に背中を預け、何もせずにのんびりとルナとは過ごしている。


「つうか、なんであの時足を怪我してたんだ?」


 何だかんだ、あの時のことを聞くのも久しぶりだ。

 ルナは特に考えるようなこともせず教えてくれた。


「ちょっと仲間とじゃれ合っただけよ。その時に少し躓いてね? まあでも、放っておけば治るって言ったのにあなたったら」

「いやいや、それにしても痛そうだったしブラブラと泉に足浸けてるだけだろ? 流石に消毒くらいはしないと」

「でも、いきなり女の子の足に触れるのはどうかと思うわよ?」

「……申し訳ない」

「ふふっ、揶揄ってごめんなさい。けどね? 私も驚いたのよ――あ、この人なら触れられても良いかなって」

「え?」

「優しいってことよ」


 優しいっていうか……まああれだぜ。

 綺麗な女性に良い所を見せたいとか、そんな打算的な考えがなかったわけじゃないので優しいとはまた違うと思うけど……ま、そう思っておこうかせっかくルナがそう言ってくれたんだから。


「さてと、それじゃあ今日も聞かせてくれる? あなたのお仕事について」

「ルナは好きだよなその話が」

「当然でしょう? ドラゴンのお世話をしている人の話なんてそうそう聞く機会はないからね」

「ま、限られてはいるか……よし分かった!」


 こうして彼女と会うと互いのプライベートについて話すことも多いが、俺が調竜師ということもあってドラゴンとどんな触れ合い方をしているのかを良く聞いてくる。

 そんなに面白いことを話しているかと気にはなるけど、基本的に俺が話すことは普段ルーナと過ごしていることだがとても楽しそうに聞いてくれるので、俺も段々と興が乗って口が止まらなくなるのだ。


「昨日はちょっと遅れちゃってさ。それで怒らせちまった」

「あなたを待っていたんじゃない? あなたがお世話をしているドラゴンは女の子なんでしょう? ならきっと待ち望んでいたからじゃない?」

「あはは、そんなわけ……って言いたいけどそうだと思う。彼女は本当に甘えるのが好きみたいだから」


 ルーナは本当に甘えてくれる可愛い子だ。

 俺なんかより数百年は長く生きているだろうに……しかもドラゴンということで強靭な体だけでなく、その身に秘める魔力すらも常人と比べることも可哀想なほどに圧倒的――正に最強のドラゴンなのに可愛いんだ。


「俺は彼女が戦っている姿は見たことがないんだ。でも、きっと強いんだろうなって思うけど……やっぱり、普段の姿が可愛いからさ」

「そんなに?」

「あぁ。昨日なんか顔に抱き着いて撫でてやったら凄く喜んでたんだよ。後は帰り際に頬まで舐めてきて……あれ、人同士だとキスみたいなもんなのかな?」

「そ、そうじゃない? それだけ好きなのね~」


 なんかルナが顔を赤くしていた。

 そんなに俺とルーナの話に恥ずかしくなる要素があったかなと思ったけど、確かにドラゴンのことを可愛い可愛い言っている男の姿はアレだったかもしれない。


「でもさ、あの子はやっぱり特別かもね」

「え?」

「俺は元々、調竜師が続くかどうか不安だったんだ。そんな中でドラゴンの女王である彼女の担当になったけど……間違いなく、俺が今まで以上にドラゴンを好きになったのは彼女のおかげだ」

「……そうなの?」

「あぁ。まあ、俺の仕事ぶりを見たらルナも何してるのって思うかもしれない……でものんびりと彼女と過ごす時間が俺は好きだ。なんつうか、ある程度の意思疎通が出来るからか人と過ごしてるような感覚なんだよな」

「ふ~ん?」

「だから大好きなんだよ。出来るだけ長く、あの子の担当では居たいかな」

「……ふふ、そっか……そっか♪」


 どうやらドラゴンとの話をルナは満足してくれたようだ。

 しかし……こうして彼女を眺めていると本当に綺麗な人だと思う――王族のような気品の高さは感じるのだが、少なくともドラゴニスの王族ではないはずだ。

 かといって他国の王族かと言われるとこんなところに一人で居るわけもないし、これに関してはこの先知ることが出来るのだろうか。


「さてと、それじゃあ少し居眠りでもしましょうよ!」

「え? うおっ!?」


 ぴょんと彼女は俺のお腹に抱き着くようにして押し倒してきた。

 俺は抵抗も出来ずに背中から地面に倒れたが、ここの芝生は柔らかくて背中も全然痛くはない。


「今日はとても気分が良いわ。きっと良い夢を見ることが出来そうね♪」


 ……俺は既に良い夢を見ているようなもんだけどな。

 ふとしたことで出会ったルナとの時間、彼女のような美女と一緒の時間を過ごせることは俺にとって最高に幸運な出来事だったのは言うまでもない。


(……でも、ルナと居る時いつも思うことがある)


 それは非常に落ち着くということだ。

 その後、せっかくの休みなのに俺は彼女と居眠りをすることになった。





「あぁでも」

「どうしたの?」

「……流石にトイレのことを聞いたらそれも怒られた」

「当たり前でしょう。私にうんちしたのかって聞くようなものよ?」

「反省してる!!」

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