神社で願かけしたら代償がやばすぎたので、好き勝手やることにした。

入口はっぱ

お前ら誰?何させるつもりだ?

001 お前は誰だ?

 高弥の目の前、二人の少年は明らかに後悔していた。


 どうしてたった二人で、リベンジしようなどと思ってしまったのか。

 彼らの目は絶望の色を宿し、高弥を見ている。


 三月十日、ある神社。

 卒業式の、夕刻だった。


 ***


「なんだよ。、会いにいこうと思ってたのに。せっかく来てくれたんなら、もっと楽しそうな顔しろよ」


 目を細めると、相手の恐怖が伝わってくる。


「一応確認だが、俺とはキリン公園でやったんだよな」


 そんな彼らの様子にも心を動かすことなく、高弥は呟いた。


 今口にした場所の名前。それが心を波立たせる。


「そうだ。俺の右腕を折っただろうが!」

「俺は左だ!」


 半年前に腕を折られたと、因縁をつけてきた二人の少年。高弥と同じく短ラン姿だが、同じ制服ではない。


「待ったぜ、半年。卒業したら、お前たちに会いにいこうって……」


 時間がたつことで、怒りが半減したらどうしようかと思っていた。しかし今彼らを前に、いっそう燃え立つ炎に高弥は安堵していた。


「今日は五十鈴いすず一人だ、やれる」


 そこへと声が届く。ひやりと冷たい感情が、高弥の指先を包み込んだ。


「俺は元々一人だが……?」


 黒い闘気が突き上がり、金に染めた高弥の髪を揺らす。


「あの日、お前らの腕を折ったのは、か?」

「お、お前に決まってんだろ!」


 乾いた呟きが抑揚なく漏れると、二人は戸惑ったようだ。


「なぁ、俺に何されても、人に言ったら後悔するぞ? いや、――させる」

「……っ」


 意味のあることかわからなかったが、卒業を待った。できるだけ身軽になり、情報が回らない内に”全員”に報復するつもりでいた。


「他言なしってんなら、都合がいいっての!」


 それは相手も同じようで、二人が突進してくる。

 手には小ぶりのナイフ。二人分は厳しいと判断し、一方にだけ気を向けた。たとえ刺されても、千倍返す。そのつもりでいた。


「!?」


 ――が、途端。視界が変わる。回転したと言えばいいのか、目に映ったのは空だ。

 足元でもすくわれたのかと思ったものの、感じるのはおかしな浮遊感だった。


(飛んでる――?)


 そう思った時には着地しており、少年二人が転がるように逃げていく。


「クソッ、また折りやがった……!」

「!?」


 妙な走り方を見ると、双方腕を折られたようだ。しかし高弥は何もしていない。


 辺りを確認しようとしたものの、すぐ側に気配。高弥の隣には、見知らぬ少年が立っていた。


「今、俺を抱えて跳んだか……?」


 聞くべきことは他にもあったのかもしれないが、出たのはその問いだ。


 こくりとうなずいた少年は、見上げるほどに背が高い。高弥の短ランに比べ、標準的な詰め襟を着ている。


(こんなヤツ知らない……)


 精悍な顔立ちに、闇のような瞳。印象的であるが故に、見たことがないと断言できた。


(それにこんな時、助けてくれるヤツなんていない)


 


 なのに――。


「お前は誰だ?」

「……高弥に会いたくて」

「は?」


 意味不明の返答に、一瞬止まる。


 しかしもう一度口を開いた時には、枯れ葉を伴い強い風が吹いてきた。

 目を閉じたのは一瞬だったはずだ。けれど風にさらわれるように、少年の姿は消えていた。


「なんなんだよ……」


(俺は一人でも、あれだけは跳べねぇ)


 身体能力で負けている。同世代にそう感じたのは、初めてのことだ。


 地をこする枯れ葉の音を聞きながら、高弥はしばらく立ち尽くしていた。

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