第30話 THE修羅場

「ひぐぅっ……うぅ……」

「本当にすいませんでした……」


 ナツキ君……改めナツキちゃんはシーナと風花に挟まれる形でベッドに座りながら涙を拭っていた。

 その横に座る2人はまるで金剛力士像のような厳つい表情でこれでもかと俺を睨んでいる。


「ベンメイのヨチはないネ。トール」

「ベンメイ? 予知? ……と、とりあえず許せないよとーる?」

「いや、本当にこれは勘違いから生まれてしまった結果と言いますか……確かに僕のテンションが上がってしまったってのも……」

「「は?」」


 それはもう、とても今までの2人が出せると思えないほどドスの効いた「は?」だった。


「すいません僕が全面的に悪いです」

「グスッ……とー兄さんは……悪くない……です……グスッ……ボクが勘違いされたままにしてしまったのが悪いんです……グスッ」

「そ、そうなんですよ、俺はずっと男の子かと思ってて……」

「ナツキちゃん? だっけ? もし危ない状況になったらこう説明しろって言われたのねきっと」

「ダイジョウブ、ワタシたちがついてるヨ」

「俺の信用度無さすぎません……?」


 そう言うと、再び研ぎ澄まされた包丁のような視線を送ってきた。

 ナツキちゃんの背中を摩りながら送れる目線じゃ無いってぇ。一体いつからそんな目線を送れるようになったんだ……。


「とー兄さんが言ってることは、ほ、本当ですぅ……ボクが勘違いしたままの方が都合がいいかなぁって……思ってしまってぇ……」

「都合が……いい?」

「あっ……こっちの話です……ズズッ……ところで、シーナさんは分かるんですけど、あなたは……?」


 ナツキちゃんはそう言って風花の方を見た。

 風花は不思議そうな表情を浮かべて、あぁ、と1人で納得した様子を見せた。


「私は加賀美風花。隣の家に住んでる。そして一応とーる犯罪者の幼馴染。よろしく」

「隣の家……こんな可愛い幼馴染……えっちだぁ」


 息を漏らすように自然に言ってのけたナツキちゃん。確かに客観的に見たらえっちなのかもしれない。

 てか俺の名前の読み犯罪者にするのやめてもらってもいいですか??


「あ、え? か、可愛い?? あ、えーと、ありがとう?」

「あっ、はい……よろしくお願いします……。改めてボクはナツキって言います」


 そこそこな至近距離でお互い会釈を済ませた後、2人は再び俺の方を向いた。


「んで。ちょっと、ナツキちゃんにいくつか聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「はい、ボクに答えられる範囲のものなら……」

「本当にとーるに何もされてないの??」

「はい……服を脱がされた事以外」

「……そう」


 俺の本能が殺られる前兆か何かを感じ取ったがどうか気のせいであってほしい。


「じゃあ、次にどうして自分のことをボクって言ってるの? あ、別に否定したいわけじゃ無いんだけど! ちょっと、理由を聞きたくて」

「あぁ、それは単純に昔っから男の子たちに囲まれて育ってきたので、気づいたらって感じですかね……だから、中学二年になって妙に男子から妙に距離を取られるようになってショックだったっていうか……」


 どうして孤立したのか気になってはいたが、まさかこんな理由だとは。確かに中学二年にもなると異性を意識し出す年頃だ。だからこそ、男子たちはいままでの距離感でナツキちゃんと接することができなくなって、距離を取ったのだろう。


 でも、確かに男子の気持ちもわからなくもない。今でこそ性別がわかってやっとイケメンでは無く美少女だと俺は認識したが、多分この家に来る時点で制服、もしくははっきりと女性だとわかる服装で来ていれば美少女だとしか思えなかったはずだ。

それほどまでにナツキちゃんは美少女している。


「そう……色々と大変だったのね……。まぁ、これで一つわかったことはやっぱりナツキちゃんは悪く無いってことだね!」

「えっ、あっ、それは……」

「トールはダマッテ」

「はい……」


 俺の発言権は依然失われたまま、ベッドの前のフローリングでしっかりと正座待機で話の続きを聞く。


「じゃあ、二つ目の質問。どうしてここに来たの?」

「あぁ、それは簡単です。家に引き篭もるよりはインターネット上で仲のいい人と会うために外出した方がいいかなぁって。特に深い考えはないっす」


 すでに泣き止んだナツキちゃんが軽く鼻をかみながらそう答えた。

 風花は「じゃあ、まだまだ聞きたいことはあるけど、これが最後の質問」と前置きをして言った。


「どうしてとーるが勘違いするように仕向けたの?」


 数秒の沈黙。そして自分の言っていることは何らおかしくないと態度で示すかのように、ナツキちゃんは毅然とした態度で言ってのけた。


「あー、それは──


えっちなイベントが起こりそうだったからっす!」


「へ?」

「は?」

「ファ?」


 さらに修羅の香りが増した気がした。

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