第23話 お洋服を買おう


 結婚前の乙女が一般男性に上裸を見せるべきではない、という内容の叱りをしっかり入れて、シーナは見るからにしょんぼりとしていた。


「わかったか? ちゃんと洋服は着ろ。それと、好きでも無い男の前で上裸になんてなるな。いいな?」

「スキじゃないコトは……」

「何か言ったか?」

「ナンデモナイ」


 さらにしょんぼりと体を萎ませたシーナ。


「てか、そもそもなんだけど、ちゃんと服は持ってきてるよな? あんなごっついパソコン持ってきておいて、服は無いとか……」

「…………ワンピースが、アル」

「それ以外は……?」

「…………nothing」

「oh……てか、あんだけでかい荷物持ってきてたのに……ってまさか、あのキャリーケースに入ってたのはデスクトップだけ、なのか?」

「モウ一つのバッグに、下着ダケ入れてキタ」

「それだけなのかよ……」


 ということで、お洋服を買いに行くことになりました。



▲ ▼ ▲



 程よく心地よいくらいの日差しが俺とシーナを照りつける。不快感は無く、むしろ心地いい。

 時折通りすぎる涼しげな風が、ふんわりと甘い香りを運んだ。


 風が吹き止み、吹いていた方を見ると、そこには風花が立っていた。


 淡いグレーのロングスカートに、ホワイトニットのセーター。黒いショルダーバッグを肩に下げ、全体的にとても清楚な雰囲気だ。


「ごめーん! お待たせ!」

「いやいや、今出てきたばかりだし」

「イーヤ、遅いネ! モット早く!」

「あ、ご、ごめんね、シーナちゃん」

「風花ー。気にしなくていいからなー」


 シーナの頭を軽く叩きながら、風花に言った。風花は柔らかな笑みを浮かべた後、俺にだけ聞こえるくらいの声量で「ありがとっ」と言っていた。

 シーナはプンスカしていたが、簡単に宥めていざ出発することにした。


「そもそも今日はシーナの服を選ぶのに風花は付き合ってくれてるんだぞ?」

「シーナ着いてきてとか言ってないモン」

「あははー。なんかごめんね」

「はぁ、シーナ。ワガママはやめろ。俺と一緒に行ったら圧倒的センスのなさの打ちひしがれて地獄を見ることになるぞ」


 近くのバス停でバスを待つ。ベンチにはシーナだけが座り、俺たち2人はその後ろに立っている。シーナは長い銀髪を垂れさせながら、後ろを振り向いていた。


「別になんでもイイシー。どーせパジャマ買うダケダシ」

「は? 私服も買えよ」

「……? ナンデ? このワンピースがあるノニ?」

「ずっとおんなじ服着てたら臭いだろ」

「ナッッッ!!! ナ、ナナナ、ナンテコトを!!!! センタクしてるし!?」

「あははー……」


 風花は口元に手を当てて、苦笑いを浮かべた。

 私服といえば。


「そういえば、風花その服似合ってる。いつも制服だから、なんか新鮮だし」

「……へぇっ!?」

「ファ!?」


 なぜかシーナまで驚いた様子を見せたが、話はここまでのようで。

 バスが目の前に到着した。


「ほら、2人とも行くぞ」

「う、うん……」

「ワ、ワタシはっ!?」

「何言ってんだ、早く乗れ。置いてかれるぞ」


 歩き方が変になっている風花と、唖然とした様子のシーナの2人の背中を押して、バスに乗り込んだ。



▲ ▼ ▲



 しばらくして着いたのは、郊外の複合型巨大ショッピングモール【NEON】。

 中には百を超えるショップや、映画館やゲームセンター、フードコートなど、一日中使っても遊び尽くせないほどの規模だ。

 平日は地元の中高生、土日は家族連れが増え、常に活気が絶えない。


 そんな場所で、シーナは。


「オゥエ……ナンデこんなにヒトがいっぱい……イルノ……ムリ、カエロ……」

「来たばかりだろ。てか、帰るにしても何か服は買っとかないと。家に入れないぞ?」

「ナッ、ナンデッ!? ヒドイッ! キチクだぁ! ……ていうカ、別にネッタイウリンでいいじゃん……頼んだら一日で届くんダヨ? 使えるモノはツカワないと……」

「それをいうんだったらここに来る前に言うんだったな。ここで買えば数秒だ」

「ヌワァぁぁぁァ!?!?」


 そう断末魔をあげた後、がくりと項垂れ落ちたシーナ。ちなみに断末魔とは言ったが、大した声量ではない。多分人の多さにビビったのだろう。


「それに、風花も来てくれてるしな……って、風花? 大丈夫か?」


 ぼーっと俺たちの方をただ一点に見ている。頬が気持ちほんのりと朱色に染まっているような気がする。


「あっ、う、うん! ごめん、大丈夫だよ」

「そうか、それならよかった。じゃあ、早速行くか!」

「そうだね! じゃあどこに行こっか?」

「まずはー……えーと、うん。全部風花に任せる!」

「えぇっ……?」

「いや、よくよく考えたら全然ここ来たことなかったし、女の子のお洋服とか全然わかんないし。だから、うちのシーナをよろしくお願いします風花さん……」

「オネガイシマス」


 この場と状況に押されてか、妙にしおらしくなっているシーナと一緒に頭を下げる。

 風花は一瞬混乱した様子を見せたが、すぐに取り繕って、いつものバカっぽい表情をして胸を張った。


「へへ、仕方ないなぁっ……じゃあ2人とも着いてきて! 絶対満足させてあげる!!」


 こうしてシーナのお洋服を買おう大作戦が始まったのだった。

 

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