第16話 メスガキとか思ってすいませんでした。
「家に、住んでいい……? って、そもそも、なんでシーナちゃんが……お父さんが危篤になって帰ったんじゃ……?」
「パパは元気ダヨ?」
「……とーおーるぅー?」
「いやっ、ちがっ、これは違くてぇっ!!」
この状況をどう説明すべきか。というかその前にくっついている二人をどうにかしなければ。落ち着いて話も出来ない。
「ま、まずは落ち着いて二人とも俺から離れてくれ」
「ヤダ。なんかやだ」
「ヤーダ。トールとシーナはずっとこのまま!」
「えぇ……」
もはや話も通じない。
このまま事情を説明するにしても、時折横を通る通行人の顔と言ったら。
驚愕と軽蔑が混じった目を俺に向けてくるのだ。そりゃ外人ロリと美少女2人がこんな冴えない男にくっついてたらそんな目で見るかもしれないけど、心がすごく痛い。
「離れないんだったらぁっ――知らないからなっ!」
家はすぐそこ。
ムキになった俺は無理やりに歩を進め始めた。
腕にくっついているだけの風花はしかめっ面で俺をジーっと凝視するだけだったが、どうやらシーナはそう上手くいかないようで。
俺が一歩動くたびに、「アッ……」と声を漏らしながらズルズルとずり落ちていく。
地面に落っこちるのが先か、家に着くのが先かというところだったが、結局ずり落ちる前に家にたどり着いた。
「二人が俺の体から離れてくれないと鍵が開けられない。家に入れない」
「もしかしなくてもとーるは私を誰も居ない家に連れ込もうとしてるー!???」
「……シーナも来るよな」
「ウンっ!」
「あっ、あぇ……」
隣で訳の分からない事を言っている幼馴染をガン無視して鍵を取り出す。この時ばかりはシーナが居て良かったと思った。
鍵を開けると俺から離れた二人が我先にと家の中に入り、靴を脱ぐ。
その光景を見ながらため息を吐いた俺は、遅れて家に入った。
▲ ▼ ▲
リビングのL字ソファに二人を座らせ、俺は椅子を持ってきて二人の体面に座る。
ソファに座ると風花は開口一番、俺たちの関係について聞いてきた。
「……二人はホームステイって言ってたけど、それは本当なの? それに、お父さんが危篤って、それにまたダーリンって……」
「……まず、ホームステイって嘘をついていてごめん風花。あの時はマジで全く知らない他人だった。だけど、事情が事情でそういう嘘は付けなかった。本当にごめん」
「
「シーナ黙れ」
「ひゃ、ひゃい……」
一旦シーナを黙らせたところで、だな。状況が既に最悪な方向に向かってしまっている。
風花の顔は見るからに引きつり、今すぐにここから逃げ出したいと表情が物語っている。
それも、そうだよな……。
だって、隣の幼馴染が見ず知らずの幼女と一緒に住むとか言ったらそりゃ引くよなぁ。
でも、脅されて、なし崩し的にこうなったことを説明すれば、シーナの正体がばれてしまう。
つい一週間前に格好つけた手前、それが呪いとして俺にのしかかってしまっている。あまりにも自業自得すぎる……。
かといって、このまま風花に説明しないままなのは、なんだか心がモヤモヤする。
嘘をつかずに、なおかつできるだけ風花に納得させる方法は……。
「実はな、風花」
「な、何……?」
「シーナは世界的な悪の組織に狙われているんだ」
「えっ……本当なの?!」
うん、嘘はついていない。
アンノウンも人道的といえ一応犯罪集団だし、大きく括って仕舞えば悪の組織だ。
多分。きっと。
シーナが文句ありげにこちらを睨み、何か言おうとしていたがそれを言ってしまえば全てがパーになる。
だから睨んだ。すっごく睨んだ。そしたら「ひゅっっ」と変な声を出して黙った。
まぁ、理解はしてくれているのだろう。
「そうだよな? シーナ?」
「ひゃ、ひゃい、そ、そうれすぅ……」
「そ、そうなの……で、でも、なんでとーるの元に……?」
「そ、それは、親の繋がりと……お、俺がすっごく……世界一パソコンを使えるからだね!! 悪の組織から守れるくらいのね!」
嘘は言ってない。うん、どれくらいパソコンを使えるかなんて主観でしかないし。
そういえば今更だけどなんでわざわざアンノウンは俺を入れようとしたんだ? わざわざ大事な娘まで使って。
もしかして、俺が本当に世界一のハッカーだったりして。
なわけないか。
「だからほら、あの、風花のスマホも直してあげられたんだ!」
「…………そうなの?」
「そうなのぉっ!!」
「そうなんだ……なんか安心した、かも。大変なんだね、とーるも」
「そうなんだよ……」
一先ず危険は回避した……かな。
なぜか隣でうんうんとシーナは頷いていた。どうしたんだこいつ。
「でも、そんな悪の組織に狙われるって、シーナちゃんは大丈夫な人なの? 何か、危ないことやってたり……」
「それは大丈夫。俺が世界一(自称)の力を使って調べたから! 心配はしないで!」
「……それでも心配……何か、ちゃんと身分がわかるものとか持ってないの?」
「身分がわかるもの……ちょ、ちょっと待ってな」
シーナに何か身分がわかるようなものはないのかと問いながら、珍しく食いついてくる風花に少しだけ驚く。
いつもなら心配になる位一瞬で信用してそれ以上踏み込んでこないのに。
本気で心配してくれてるってことだったら嬉しいけどなぁ、なんてことを思いながら身分がわかる物をなかなか出さないシーナと戦っていた。
「何か無いのかよ……免許証……は取れる年齢じゃないし……あ、そうだ! パスポート! パスポート出せ!」
世界共通。年齢性別、それに顔写真のおまけ付き。それにここにいるということは、絶対に所持しているはずだ。
「さぁ、出せ! 早く!」
「ヤ、ヤダァッ! それだけはヤダァッ!!!」
「なんでだよっ!! 早く出せ!」
「ヤダナノッ! ……あ、そ、ソダヨ、ワタシ、不正渡航したからパスポートないノ!」
「何マジっぽいこと言ってんだよ! それに最初にやだっつってただろ!? それは逆に言うとパスポートがあるっていう何よりの証拠なんだよ!」
「ヤダァァァァァ!!!!!!!!」
なんでシーナはこんなにもパスポートを見せるのを嫌がるんだ。顔写真がすごい事故画だったとか?
……いや、この顔だったら変顔してもそこらの一般人より可愛くなるはずだ。
まぁ、訳なんてどうだって良い。というかここまで引っ張られると逆に見たくなってきた。
「そうか。じゃあ選べシーナ。この家を出ていくか、パスポートを見せるか」
「ナッッ……!! ヒ、卑怯ダヨ!?」
「この家に住むには幼馴染の了承が必須。だから追い出されたくなければ早く出せ!!」
「とーる、この子を匿ってあげるんじゃなかったの?」
「あっ…………ホ、ホンニンカ、カクニンシナキャ!」
「あー、なるほどぉ!」
手に握り小槌を打ちつけ、納得した様子の風花。危ねぇ。
「さぁ、シーナ。どうするんだ!!」
「ウグゥ……ウゥ……ウァ……住まわせてクレルって、イッタから……チャント、約束ハ、守って……ネ……?
まるで悟りを開いたお坊さんのように、無の境地に達したような、表情と雰囲気を醸し出すシーナ。
静かな動作で大きなバッグから一冊のパスポートを取り出した。
なんでそんな様子になるのか、1ミリたりとも理解できなかったがとりあえず風花と共にパスポートを開く。
顔写真は……なんの変哲もない天使がいた。別に事故画だとかそういうわけではなかった。じゃあ、性別は……ちゃんと女だ。
別に疑っていたわけではないが、おとこの娘だった場合かなりのショックが……え?
頭が揺れるような、大きな違和感。
俺はパスポートの一端に表記されているその文字を見て、自分の目を、視力を、脳を疑った。
「生年月日……2003年生ま……れ? 2013年の表記ミスじゃなくて2003年生まれ……? だ、だって、これだったらシーナは今年で19歳……」
先ほどから不気味なほどに静かだったシーナを見ると、口を真一文字に閉じ、ゲレンデに激辛ソースを撒いた後のように真っ赤に顔を染めていた。
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